2025年11月場所個別評価 安青錦

 今場所は新関脇の場所となったが12勝3敗の好成績で初優勝を果たし、場所後に大関に昇進した。4連勝スタートを切ったが5日目は若隆景の立ち合い変化で初黒星を喫した。しかし翌日からは白星を伸ばし、9日目に勝ち越しを決めた。その後11日目は義ノ富士、13日目は大の里に敗れて3敗となり、場所後の大関昇進は微妙な状況となった。しかし14日目は豊昇龍を倒して優勝争いでトップに並ぶと千秋楽は本割で琴櫻に勝ち、優勝決定戦では豊昇龍を返り討ちして優勝を決めた。

 内容に関しては低い前傾姿勢からの前に出る相撲で白星を挙げていた。そして相撲に安定感があった。三役2場所目ということで本来は大関獲りの場所ではないのだが、相撲の安定感に加えて優勝という結果を出した。よって大関昇進は文句なしである。驚くべきはスタミナである。疲れが溜まるであろう終盤戦も動きが全く落ちていなかった。おそらく部屋で激しい稽古を積んでいるのだろう。また入幕後は5場所連続二桁勝利であり、15日間トータルで結果を出せる実力を備えているということである。

 負けた相撲に関しては若隆景戦は相手の注文相撲ということで21歳の若さを考えると仕方がない。義ノ富士戦は相手の回転の速い突っ張りに上体を起こされての完敗だった。弱点を突かれた格好となったが、それでは他に速い突っ張りができる力士が上位にいるかといえば、高安くらいしか思い浮かばない。今後のことを考えると気にしなくてもいいかもしれない。大の里戦は負けはしたものの初めて廻しを取り、際どい勝負に持ち込んだことは事実である。立ち合いの圧力がもう少し増せば大の里に勝てる可能性が出てきたと私は見ている。

 そして個人的には初優勝と大関昇進は運も向いたと思っている。もし大の里が決定戦の相手だったら勝てたかどうかは分からない。相手が戦い方を心得ている豊昇龍だったからこそ優勝できたという見方もできる。そして大の里が後半戦に崩れたチャンスを上手く生かした。結果論だが、今場所は流れが全て向いていたのかもしれない。

 課題としてはやはり立ち合いの圧力の強化と増量が挙げられる。また勝ち越しはしたものの、序盤の3日間と高安戦は上体を起こされかけており、力の差があるようには見えなかった。また大関に昇進したことで対戦相手が更に研究してくるはずである。確かに横綱候補ではあるものの、早期の横綱昇進はないと見ている。まずは大関の地位に慣れると同時に地力強化に力を注ぎたい。

 来場所は大関となり、胸を借りる立場から受けて立つ立場へと変わる。またお祝いや挨拶回りが増えると思うので調整に一苦労することが予想される。しかし看板力士なら誰もが通る道である。怪我だけには気をつけて本場所を迎えて欲しい。どのような成長曲線を描くかが非常に楽しみである。