2025年9月場所個別評価 錦富士

 今場所は西十両3枚目だったが11勝4敗の好成績だった。前半戦を6勝2敗で折り返すと後半戦は10日目に勝ち越しを決め、11日目は再入幕有力の9勝目を挙げた。翌12日目は栃大海に敗れて3敗目となり、優勝争いから一歩後退した。しかし13日目は2敗の朝乃山を倒し、優勝争いに残った。千秋楽は星一つ差で朝白龍戦であり、勝てば優勝決定戦となるところだったが寄り切りで敗れ、決定戦には持ち込めなかった。

 さて話題となったのが幕内の尊富士が全休で来場所の十両転落が確実になり、142年続く青森県出身の幕内力士が途絶えるピンチとなったことである。記録継続のためには錦富士が幕内に復帰するしかなくなった。番付的には9勝が目安となるが、番付運もあるため安心はできない。また青森出身の関係者も気が気でなく、先代師匠の元横綱旭富士の宮城野親方からは「頑張れよ」と声を掛けられ、元小結阿武咲からも場所中に激励を受けたようである。よっておそらく優勝争いどころではなかったと思われる。重圧の中での土俵となったが11勝を挙げ、再入幕を確実にした。

 ただ記録継続に向けては楽観できない状況が続きそうだ。一番は年齢が若い尊富士が定着することだが怪我が多く、今後定着できるかは不透明である。そして錦富士も地力がある一方で怪我が多い力士なので場所を見てみないと分からない部分もある。また青森県出身の力士自体が減っており、当分は2人の頑張りに期待するしかない。かつては相撲どころとして知られ、数々の名力士を生み出してきただけに記録には重みがある。しかし2人に責任を負わせるのは少し違うような気もする。記録はいつかは途切れるものであり、個人的には自身の事を第一に考えて頑張って欲しいと思っている。

 内容に関しては押し相撲と左四つに組み止める相撲で白星を挙げていた。先場所は途中休場しながら10勝を挙げており、やはり十両では力が違う。特に良かったのが13日目の朝乃山戦である。頭からぶちかますと左四つに組んで寄り立て、最後は右上手投げで転がした。先場所は首を痛めており、今場所も頭から当たる相撲は少なかったが、この日はぶちかましが見事に決まった。朝乃山もぶちかましは想定しておらず、作戦勝ちだったと言える。

 来場所は再入幕となり、東前頭15枚目となった。実力は持っているので勝ち越しだけでなく、再度の幕内定着を期待したい。繰り返しになってしまうが怪我が増えてきているので少しでも体調を万全にして本場所に備えたい。それでも地力は上位であり、上位力士と対戦できる位置まで番付を戻して欲しい。