2025年9月場所を振り返って 十両の優勝争い 千秋楽 朝白龍ー錦富士戦

 そして2番後が朝白龍と錦富士の取組となった。朝白龍が勝てば朝白龍の優勝となり、錦富士が勝てば両者に朝乃山を加えた3人による優勝決定巴戦となる。

 相撲は朝白龍が立ち合いで左に動いて左上手を取ると右も差し、十分な形を作った。一方錦富士は右下手は取ったものの左は抱える形となり、苦しい体勢になった。その後朝白龍が左から上手出し投げを打ち、錦富士の右下手が切れたところを一気に寄り切り、新十両優勝を決めた。

 勝った朝白龍は左上手が取れたことが勝因である。今場所は左上手狙いの相撲は取っておらず、作戦が見事に成功した。変化は準備運動の時に思いついたようだが、その前から気持ちを固めていても全くおかしくない。なぜなら錦富士は13日目は朝白龍と同じ高砂部屋所属の朝乃山、14日目は同部屋で幕内の朝紅龍に勝っていたからである。しかも一方的な内容の相撲であり、どうやったら勝てるか思案したのは容易に想像できる。またこういった流れでの立ち合い変化であり、私的には朝白龍を批判できない。錦富士を警戒するのは当然であり、得意の左上手を取って優勝に結び付けた。そして前日までの相撲内容が素晴らしく、素直におめでとうと言いたい。

 負けた錦富士は取組後は「ふわっと立ってしまった」と語り、悔しがった。しかし個人的な考えとしては、朝白龍がふわっと立たせるだけの実力を持っていたということだと思う。また分かっていれば対応の仕方もあったかもしれないが、新十両なので仕方がない部分もある。結果論だが、朝白龍の方が一枚上手だったということである。それでも13日目からは高砂部屋の2人に連勝し、朝乃山の十両優勝を阻止する形になった。また「高砂包囲網」とも言える状況で千秋楽まで優勝争いに絡み、存在感を見せた。もっとも幕内の尊富士が今場所全休であり、142年続く青森県出身の幕内力士に関しては幕内復帰というミッションが課せられていた。そして「僕らが現役のうちは途絶えさせたくない」と語っていたが12勝を挙げ、再入幕を確実にするとともに歴史をつなげた。よって本人にとっては白星が大事であり、優勝争いどころではなかったかもしれない。

 また来場所の十両に関しては錦富士と入れ替わりで尊富士が幕内から陥落となる。朝白龍と朝乃山は引き続き十両での土俵となり、ハイレベルな優勝争いが見られそうだ。そして新十両の五島改め藤凌駕も能力が高く、優勝争いに加わることも予想される。また琴栄峰や三田、藤青雲、大青山といった若手力士もおり、今場所以上に激しい戦いが見られるかもしれない。

終わり