これぞ理想の横綱! 照ノ富士 思い出の一番として挙げた2019年3月場所初日の相撲
休場明けで序二段の土俵に立った若野口戦である。自著「奈落の底から見上げた明日」によると、宿泊場所から、奥さんに車を運転してもらって場所に向かうみたいだが、その車中から妙に落ち着かなかったようである。「嫌だなー」「行きたくないなー」と思いながら車に揺られていた。そして会場入りした後も体重を戻したはずの体もふわふわして軽い。そんな中で花道から入場すると「照ノ富士ー!」という声援があちこちから聞こえてきた。驚くと同時に、今の自分の状態をようやく悟った。「これってもしかして、『緊張』ー?」。相撲は叩き込みで勝ったが、相撲を含めてその後のことはあまり覚えていないようだ。「これが緊張か・・・」そう言いながら花道を下がると呼出しの照矢さんがいた。何だか心底ホッとして、照矢さんに歩み寄りながら「緊張したー!」とつい漏らしてしまった。
元々緊張とは無縁のタイプであり、自分に自信が持てるくらいの準備をしているので、緊張はしないようである。だからこそ、あの時の緊張がなぜ起こったのか、今でもよく分からないと語っていた。ちなみに先述の自著は横綱昇進直後に出版されたものであり、今のところは「最初で最後の」経験だったと述べている。よって思い出の一番として挙げたということは、出版後も緊張はしなかったということである。
またそれと同時に「頑張れー照ノ富士!」という声援が、耳に残って離れなかったようだ。落ちた時は離れていく人がたくさんいたが、再起を決めて戻ってきたら、落ちても応援してくれる方がいたことに気付かされた。
こんなに苦しい時に応援してもらっていることを実感したら、ただ頑張るだけではなく、しっかりと結果を出さなきゃダメだと思った。そしてどん底から這い上がり、「奇跡の横綱誕生」となった。気持ちの上でも決意を固めた一番と言ってもいいかもしれない。
続く
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