2024年11月場所個別評価 阿炎

 今場所は東前頭3枚目だったが11勝4敗の好成績で2回目の殊勲賞を受賞した。初日の若元春戦は取り直しの末押し出しで敗れ、黒星スタートとなった。しかし翌日からは連勝すると4日目は新大関の大の里を掬い投げで破り、初黒星を付けた。その後7日目はここまで全勝の豊昇龍を引き落としで破った。豊昇龍は千秋楽まで優勝争いを演じており、三賞受賞の決め手となった。そして前半戦を6勝2敗で折り返すと10日目に勝ち越しを決め、優勝争いのトップを星一つ差で追走した。しかし翌日は阿武剋に敗れ、優勝争いから後退した。それでも終盤は前半戦の勢いをそのままに白星を伸ばし、11勝で場所を終えた。そして来場所の三役復帰を確実にした。

 内容に関してはもろ手突きからの突き押し相撲で白星を挙げていた。印象に残ったのはやはり4日目の大の里戦と7日目の豊昇龍戦である。大の里戦は右のど輪を止められたものの、大の里が前に出てきたところで右に回り込んで右を差し、掬って裏返しにした。大の里からすれば右差しは頭になく、虚を突かれたかもしれない。しかし以前から右四つの稽古はしており、その成果が出たようだ。また場所前の二所一門の連合稽古では唯一申し合いには参加せず、大の里の動きを注意深く観察していたようである。大の里の動きを見た上で奥の手を引き出しての白星ということで、本人が言うように全部が上手くかみ合った結果と言える。豊昇龍戦は阿炎が僅かながら早く立ち、もろ手突きから右のど輪で上体を起こすとすかさず引き、豊昇龍を這わせた。取組後は先手を取ることしか考えていなかったと語っており、してやったりといったところだ。それでもスピードで上回る豊昇龍に相撲を取らせなかったのは流石である。また10日目の平戸海戦は珍しく立ち合いで左から張り、右差しを狙った。結局四つには組めなかったものの、右へ体を開いての肩透かしで平戸海を裏返しにした。考えながら相撲を取っており、今後も場所に1番くらいは意表を突く立ち合いが見られそうだ。

 来場所は2場所ぶりの三役復帰となるが、同時に右膝の怪我から復帰した若隆景も三役復帰となる。また三役の大栄翔、若元春も実力者であり、生き残りを懸けた戦いとなりそうだ。当然三役定着を期待したいが、大関の成長と若手力士の台頭を考えれば決して楽観できる立場ではない。しかし若手力士の壁となる存在であるのは確かであり、乗り越えるのは大変である。勝負師という部分では元関脇・寺尾の先代師匠よりも上であり、何をしてくるか分からないと対戦相手が警戒する存在でもある。来年も相手に嫌がられる相撲で立ちはだかりそうであり、その相撲内容に期待したい。