2024年7月場所個別評価 阿炎

 今場所は8勝7敗で勝ち越した。2日目の白星は不戦勝であり、5日目の熱海富士戦が相撲を取っての初白星となった。それでも7日目からは連勝し、白星が先行した。そして14日目は霧島を引き落としで破り、勝ち越しを決めた。

 内容に関してはモロ手突きの相撲に加えて廻しを取っての相撲や差す相撲も取っていた。5日目の熱海富士戦は左で張り、右を差すような動きを見せた。そして左上手を取り、出し投げを打つと熱海富士の背中に付き、送り投げで仕留めた。本人によると「組ませないための四つ相撲」のようである。稽古場で何度も試しており、その成果が出た。8日目の豪ノ山戦はモロ手突きで応戦するのではなく、熱海富士戦同様左から張り、左上手を取って豪ノ山の動きを止めた。その後豪ノ山が前に出てきたところを左に回り込みながらの上手投げで這わせた。リーチの長さとスピードを生かした取り口だった。そして13日目の琴櫻戦は琴櫻のモロ差し狙いに対して左おっつけで応戦し、左へ回り込んだ。そして振りほどくと右を差し、左上手を取られるも一気に寄り切った。元々は突き押し相撲であり、四つになったら速く攻めるのが基本である。指摘するのは簡単だが、スピードが速いだけでなく、攻めるタイミングを分かっているのが阿炎の持ち味であり、特長である。普段から稽古場でいろいろ考えながら相撲を取っているのだろう。その成果を発揮していた印象である。

 一方モロ手突きの相撲に関しては相手に研究されてきており、懐に入られて押し込まれるといった内容が目立った。おそらく肘の状態が良くないのでモロ手突きだけではなく、廻しを取っての相撲に活路を見出しているものと思われる。

 また今場所は勝ち越したことを私としては評価したい。5月場所は10勝を挙げたものの、役力士が3人休場した上、不戦勝も2つあった。しかし今場所は役力士の休場はなく、全ての上位力士と対戦しての結果である。しかも14日目での勝ち越しであり、勝ち越せるだけの地力が備わっていたことは疑いようがない。

 大関に向けては前に出て勝った相撲は少なく、この内容では厳しそうである。また本人も上は全く意識しておらず、目の前の一番一番に集中し、三役の座を守ることが大事である。

 9月場所は再度の勝ち越し、そしてできれば二桁勝利を期待したい。最近は探求心の旺盛さが土俵に表れており、対戦相手を見ながら考えて相撲を取っている。それに加えて自身の持ち味も分かっており、先代師匠の元関脇寺尾も天国で喜んでいるものと思われる。ただ持っている能力は高く、今度は大関昇進か優勝することで先代師匠に恩返しすることを私としては求めたい。