琴恵光引退に関して 「しゃくる」とは何か? その2

 また師匠は語る。「差すと安心して動きが止まってしまいがちなんですよね。私も昔、そうでしたし、(琴)恵光もそうでした」。そして当然だが、琴恵光はしゃくるのが上手いと、部屋の親方衆の意見が一致している。またしゃくるタイミングは、右か左を差した瞬間のようである。よって考えながらできることではなく、最初から頭に入れておくことが大前提ということだと思われる。

 ということで「しゃくる」とは勝負を付ける技ではなく、有利な体勢を築くための手段である。琴恵光はこの技を随所で使い、動きの中で勝負を付けていた。

 ただ残念なのが、記事を読んだ後に引退してしまったことである。記事を読んだ後で琴恵光の動きを確認できなかったのが悔やまれる。ちなみに去年の7月場所12日目の北青鵬戦の動画はユーチューブに残っており、興味のある方は見ていただきたい。当たってすぐのところでしゃくる動きを見せている。また結果は左からの逆転の上手投げで琴恵光が勝っている。

 私が観た限りにおいては「しゃくる」を多用している力士は見当たらない。しかし注意して見ないと分からない技でもあるので佐渡ヶ嶽部屋の力士が土俵に上がった時は技が出るか注目しようと思っている。

 また「しゃくる」動きは「ガブる」動きと似ている。どちらも体全体を使って、下から上へと、相手の体を起こしている。大きく違うのは「ガブり寄り」という言葉があるように、「ガブる」時は前に力を加え続け、相手を土俵の外に出す。一方「しゃくる」はあくまでも差した瞬間、相手を揺さぶって有利な体勢を築くためである。

 ガブり寄りに関しては佐渡ヶ嶽部屋では琴風や琴奨菊など、得意とする力士を輩出してきた。そして佐渡ヶ嶽部屋に限らず、他の部屋の力士でも見られる動きである。「しゃくる」動きの中で「ガブる」動きにつながったのかは不明のようである。

続く