2024年5月場所を振り返って 大の里優勝に関して

 私的には師匠の二所ノ関親方から「12勝3敗の優勝は優勝じゃない」と言われていたことがプラスに働いた気がする。大の里は出世は早いものの各段優勝はしておらず、先場所も直接対決で尊富士に敗れ、優勝を逃している。よって何が何でも優勝したいという気持ちは持っていたはずである。しかし師匠の厳しい言葉を聞き、一番一番の相撲に集中できたのではないだろうか。

 そして千秋楽を前にして師匠から掛けられた言葉は「優勝しても喜ぶな」というものだった。この部分は師匠が先代鳴戸親方だった元横綱隆の里から仕込まれた部分でもある。先代師匠の厳しい教えにより、元横綱稀勢の里の現役時代はしかめっ面であり、無口というイメージだった。しかし引退後は笑顔が多くなり、冗舌に語ることも多くなった。おそらく師匠の中では喜びを爆発させるなどはご法度であり、今後もこういったアドバイスが続くものと思われる。

 嬉しかったのは大の里の優勝という結果ではなく、師匠の指導方針である。師匠は「完成度はまだ10%」と大の里の相撲を評している。裏を返せばそれだけ無限の伸びしろがあるということである。よっていまだに本格的な四つ相撲を教えていないようだ。そして師匠は「相手をぐちゃっとつぶすような立ち合いを身に付けることが先」と説明している。この考えに私は大賛成である。そして師匠が言うような立ち合いが身に付けば番付が自ずと上がり、頂点に辿り着けるということだと思う。確かに立ち合いの出足は鋭いが、厳しく言えば安定感があるとはいえず、当たりが弱かった時は負けている。しかし負けても次の場所でしっかり修正してくるところが大の里の凄さである。鋭い立ち合いを身に付け、場所ごとに修正していけば横綱に上がるのではなく、横綱という地位が自ずと手に入ると考えている。よって今後に向けてが非常に楽しみである。優勝に満足せず、更なる相撲内容の向上を期待したい。

続く