2021年5月場所個別評価 高安

 今場所は10勝5敗という成績だった。前半戦は6勝2敗で折り返した。そして後半戦は9日目は照ノ富士戦だったが物言いの末叩き込みで敗れた。終始先手を取ったが最後はあと一歩が出なかった。これで3敗となり、優勝争いから大きく後退した。そして11日目は貴景勝に敗れて4敗。その後は連勝し、14日目は豊昇龍を叩き込みで破り、白星を二桁に乗せた。千秋楽は隆の勝との関脇対決だったが激しい攻防の末叩き込みで敗れ、11勝目は成らなかった。来場所の大関獲りに向けては痛い1敗となった。それでも三役で2場所続けて10勝であり、伊勢ケ浜審判部長は「13勝以上で優勝すればそういう話も出てくる」と語り、7月場所の大関獲りを明言した。

 内容に関しては惜しくも優勝を逃した3月場所よりも体の動きが更に良くなっていた。相手に合わせる相撲ではなく、自ら押して前に出る相撲が増えた。おそらく本人は大関復帰に向けて手ごたえを感じていると思う。また7日目の御嶽海戦後は「自分ひとりじゃなくて、3人で戦っていると思っている」と語っていた。2月に待望の長女が誕生し、気力の充実ぶりが相撲にも表れている。やはり現状では突き押しが主体で、相手によっては廻しを取りに行くという形が理想である。また見事だったのが10日目の正代戦である。直近で8連敗と苦手にしていたが相手得意の左差しを右前廻しで止めに行くのではなく、左上手を取り、相手の動きを止めた。してやったりの相撲だったと思う。こういった柔軟な相撲が取れるのが高安の特長である。

 突き押しに関して言えば2日目の千代の国戦は突き倒しで勝ったものの何度も叩く場面があり、取組後本人が首をひねっていた。引いても構わないが、やはり相手を押し込んでから引き技を繰り出したい。また7日目の北勝富士戦は土俵際で逆転の突き落としで敗れた。前に出た相撲内容は悪くないが、大関復帰を考えれば一気に押し込める威力が欲しい。更なる突き押し相撲の進化が求められる。

 来場所は一応大関獲りにはなるが13勝以上が条件であり、ハードルが高い。ここは11~12勝挙げて9月場所につなげたい。また朝乃山が出場停止になったことも高安にとっては大きい。関脇だが元大関であり、大関に準じる役割が求められる。そして9月場所は朝乃山が関脇に陥落するので大関昇進へのハードルが低くなる可能性も十分ある。優勝争いに絡みつつ、代理大関としての役割を期待したい。あとは相撲内容は文句ないので土俵際の詰めの部分を注意して取りこぼしを少なくしたいところだ。