2024年11月場所個別評価 豊昇龍

 今場所は13勝2敗の好成績だった。大関昇進後は序盤での取りこぼしが多く、直近は4場所連続で初日黒星だったが今場所は5連勝で序盤を乗り切った。6日目の熱海富士戦は動きを止められて苦しい形となったが熱海富士の勇み足に助けられ、命拾いした。しかし翌日の阿炎戦は引き落としで敗れて初黒星となった。8日目は勝って前半戦は7勝1敗で折り返した。そして後半戦は琴櫻同様白星を伸ばし、両者が譲らないまま千秋楽相星決戦となった。相撲は豊昇龍が押し込んだ後右上手を取り、投げを打ったものの琴櫻に残されると足を滑らせたこともあり、叩き込みで敗れて2度目の優勝は成らなかった。それでも13勝は優勝に準ずる成績ということで来場所は綱取り場所となった。

 内容に関しては見違えるくらい立ち合いの当たりが鋭くなり、前に出て勝つ相撲が増えた。転機となったのは今年7月場所での怪我である。12日目の琴櫻戦では寄られたところを逆転の首投げで仕留めたが、右内転筋を痛めて翌日から休場した。優勝圏内にいる大関でありながら離脱し、務めを果たせなかった。下がりながらの投げ技は怪我と背中合わせであり、師匠の立浪親方は「前に出ないとダメだ」と苦言を呈したようだ。そして負傷明けの先場所は千秋楽に辛うじて勝ち越し、これで尻に火がついた。稽古量だけでなく、稽古への意識もアップした。そして四股やすり足などの基礎運動にみっちりと取り組む時間を増やした。

 手応えは取組前の準備にも違いとなって表れた。「アップがいつも激しかったけど、今場所はマイペースで激しくない」と付け人の北洋山は語る。立ち合いの確認も、これまではさまざまな形を試していたが、今場所はずっと両手と頭で当たっていく形しかなかったという。「毎日変わらない。ちゃんと集中できている」と大関の変化を証言していた。ということで私は付け人の言葉が全てだと思っている。場所を通して相撲に集中できていた。確かに優勝は逃したがそれは結果であり、今場所のように集中できていれば優勝のチャンスは何度も巡って来る。

 さて綱取りへの課題の一つはやはり熱海富士戦である。今場所は勇み足での白星となったが先場所までは3連敗しており、対策が急務である。3連敗中はいずれも熱海富士に右四つ左上手に組み止められていた。そして今場所は左上手は取られなかったものの右を差したところで左から抱えられ、動きを止められたという部分は同じである。熱海富士の右からの攻めが甘かった分だけ助かったという印象であり、胸を合わせる形だけは避けたいところだ。巡業では熱海富士をつかまえた上で稽古をし、その中で課題克服への糸口をつかみたい。

 来場所は綱取り場所となるが、13勝以上での優勝が条件となりそうだ。更なるレベルアップが必要だが、スピードが速いという点では琴櫻よりも綱取りの可能性が高いと私は見ている。確かに今場所9勝止まりの大の里が巻き返してくるはずなので一筋縄ではいかないと思う。それでも流れ的には勢いがあり、今場所の悔しさを来場所にぶつけてくることを踏まえれば十分期待できる。協会側も新横綱誕生を待ち望んでおり、今場所以上にレベルの高い内容でその期待に応えたい。