2024年5月場所個別評価 宝富士

 今場所は西前頭16枚目で再入幕の場所となったが9勝6敗で勝ち越した。5日目は大奄美を寄り切りで破り、7年ぶりとなる5連勝スタートを切った。そして前半戦は大の里とトップタイとなる7勝1敗で折り返した。そして後半戦は10日目に一山本に勝って勝ち越しを決めた。その後は3連敗し、優勝争いには残れなかったものの14日目は若手の琴勝峰を送り出しで破り、9勝目を挙げた。千秋楽は北勝富士に敗れ、惜しくも二桁勝利には届かなかった。

 実績のあるベテランの再入幕であり、注目されたが初日から得意の左四つに組み止める相撲が取れており、厳しい相撲が取れていた。本人によると理由は二つあるようである。一つは3月場所で67場所ぶりに十両へ転落し、歴代6位の幕内通算出場が990で止まったことである。転落前は平幕下位であり、終盤は番付を守るプレッシャーの中で相撲を取っていた。しかし転落したことで記録が止まり、吹っ切れたことが大きな要因のようである。そしてもう一つは旧宮城野部屋の力士が移籍してきたことである。今までは幕下の相手が少なく、関取衆が相手だと攻め込まれて後手に回り、思うような稽古ができなかった。しかし幕下力士が増えたことで自分の力が出せるようになり、スタイルを固めることに集中できるようになったようである。幕下力士でいえば元十両の天照鵬と松井が旧宮城野部屋から移籍している。それに加えて宮城野部屋へ入門予定だった草野が幕下最下位格でデビューしている。これらの力士の加入は宝富士にとってプラスに働いたようである。

 好内容だったのが14日目の琴勝峰戦である。相手に右からかち上げられ、突き立てられるも左からいなすと今度は左を差し、前に出たところで左からいなした。そして相手を横に向かせ、左腰に付いて送り出した。流れるような攻めは見事だった。また幕下相手に試した内容が本場所でも発揮できたということかもしれない。確かに環境の変化は大きかったのかもしれないが、実力があってこそという部分でもある。

 7月場所は番付を上げるが再度の勝ち越しを期待したい。また先述の幕下力士は聖富士を含めていずれも若手期待の有望株である。自ら結果を出すと同時に若手力士に胸を出し、力を引き上げる役割も求められる。