2024年5月場所個別評価 豊昇龍

 今場所は10勝5敗という成績だった。連敗スタートとなったがその後は巻き返し、前半戦は5勝3敗で折り返した。そして後半戦は9日目に高安に敗れ、優勝に向けては痛い4敗目となった。しかしその後は白星を並べ、辛うじて優勝争いに踏み止まった。千秋楽まで優勝の可能性があったものの大の里が勝って優勝を決めたので優勝はできなかった。

 結果論だが序盤の連敗が非常に痛かった。初日の熱海富士戦は立ち合いからすぐに左前廻しを取られ、動きを止められたのが全てだった。2日目の阿炎戦は相手の右のど輪で一気に土俵の外まで運ばれた。いずれも大関の相撲とは言えず、こういった内容を一番でも減らさない限り上は望めない。

 それでもその後は調子を戻し、二桁勝利まで持って行ったのは実力がある証拠である。並の大関なら勝ち越しが精一杯という流れになるところである。大関昇進後は優勝こそないものの、これで4場所連続二桁勝利となった。大関としての役割は果たしており、地力があるのは確かである。

 内容に関しては四つ相撲を主体として相手を上手くさばいていたという印象である。見事だったのはやはり11日目の大の里戦である。立ち合いからすぐに左上手を取ると同時に右下手も取り、相手の動きを止めた。すると右足を大の里の両足の間に入れ、跳ね上げるように右下手投げを決めた。大の里の両足は宙を浮いており、柔道でいえば内股で一本である。181キロの巨体を裏返しにしたという意味では今場所一番の相撲と言ってもいいかもしれない。

 しかしさばく相撲には限界がある。9日目の高安戦は立ち合いからすぐに左を深く差され、そのまま掬い投げを打たれて敗れた。さばく相撲は高安も得意としており、一歩間違えてしまったらおしまいである。やはり12日目の御嶽海戦のように組み止めて一気に寄っていくような相撲をどれだけ増やせるかが今後に向けてポイントとなりそうだ。また軽量なので熱海富士戦のように上手を取られると苦しくなる。押し相撲も取れる力士であり、時には押し相撲を取れば相手の対応も変わってくるはずである。力を付けるのは勿論だが、相撲の柔軟性も欲しいところだ。

 7月場所は横綱が出場するかは分からず、休場となれば番付最上位として優勝争いをし、優勝することが求められる。責任は増すが、裏を返せば優勝するチャンスであり、横綱に昇進するチャンスでもある。ただ全体として見れば優勝できそうな相撲は取れておらず、結果以前に前に出る相撲を増やすなど、相撲内容の向上を期待したい。