2024年3月場所個別評価 琴ノ若

 今場所は新大関の場所となったが10勝5敗という成績だった。2日目は朝乃山に押し出しで敗れて初黒星となり、5日目は宇良に負けて2敗となった。しかしその後は白星を重ね、前半戦は6勝2敗で折り返した。そして後半戦は10日目に勝ち越しを決めた。翌11日目は全勝の新入幕の尊富士との注目の一戦となったが寄り切りで敗れ、尊富士の連勝を止められなかった。また3敗となり、優勝争いから大きく後退した。その後13日目は貴景勝に送り出しで敗れて4敗となり、優勝争いから脱落した。それでも14日目は豊昇龍に勝ち、白星を二桁に乗せた。

 内容に関しては今場所は押し出しで2番、突き出しで1番勝っており、離れて取る相撲が多かった。また小手投げで3番勝っており、これは対戦相手に両差しを警戒された結果でもある。差されても体を開いての小手投げで仕留め、対応力の高さを示した。二桁勝利を含めて、合格点を与えていい内容だったと言える。

 好内容だったのは4日目の隆の勝戦と8日目の若元春戦である。隆の勝戦は立ち合いから押し込んだものの押し切れず、逆に右を差されて苦しい体勢となった。その後右下手を取られたが左からの小手投げで振り回すと右をのぞかせ、体勢を有利にした。最後は隆の勝に寄られながら右外掛けを仕掛けられるも左からの小手投げで転がした。琴ノ若は勝機を見つけて仕掛けるのが早い力士だが、大関に上がったのでこれからは時間をかけてでも勝つといった相撲内容も求められる。特に前半戦に平幕相手に負けると後が苦しくなるので、前半戦は不利な体勢になっても我慢しながら勝つといった相撲が不可欠である。若元春戦は先場所は負けていたが今場所は先場所の結果を踏まえて立ち合いから突き放し、差す姿勢を全く見せなかった。そして粘る若元春に突き押しの手を緩めず、そのまま押し出した。今場所は何としてでも勝つという強い意志が見えた一番だった。

 一方負けた相撲に関してはやはり11日目の尊富士戦である。確かに新入幕でありながら出足が速く、尊富士を褒めるべき内容だったのは確かである。しかし琴ノ若の側に立てば、間隔が空いた後に差して一気に前に出るスピードがなければ横綱には上がれないのも事実である。形は違えど、速い攻めで負けたという点では先場所照ノ富士に負けた相撲内容と全く一緒である。また琴ノ若の今後の課題の一つである。

 さて3月場所千秋楽の後の打ち上げパーティーの席で、5月場所から「琴櫻」を襲名することを発表した。先代師匠との約束を果たしたのは偉いの一言である。私的には琴櫻の四股名は偉大であり、気持ちは琴ノ若のままで相撲を取って欲しいと思っている。

 5月場所は今場所の相撲内容を見た限りでは最低でも優勝争いには加われそうである。相撲に安定感はあるので、初優勝に向けては相撲に厳しさが欲しいといったところである。性格的におっとりした部分も見られるので、まずは一日一日の相撲に集中し、その先に優勝があるという考え方の方がいいのかもしれない。