2024年3月場所を振り返って 優勝争い 千秋楽 尊富士ー豪ノ山戦

 千秋楽は尊富士が休場するのであれば午前中までに協会に休場届を提出する必要がある。しかし休場するという報道は入ってこない。この時点で強行出場することが分かった。また午後に師匠の伊勢ヶ浜親方が会場入りした時に初めて取材に応じた。師匠は「歩けますんで。状態はあまり良くない。足首をちょっと怪我してます」と話した。そして痛めたのは土俵下に落ちた時のようである。また足首の他に甲などを痛めていることを明かした。

 その後大相撲中継で場所入りした時の尊富士の様子が映っていた。確かにゆっくりではあったが自力で歩けており、これだったら相撲が取れるのではないかと私は思った。痛み止めの注射を打つなどして最善を尽くしてきたとは思うが、これなら最低でも相撲にはなりそうである。あとは土俵に上がった時にどうなるかというところだ。

 そして大一番である。豪ノ山戦だったが立ち合いで珍しく右から張り、左を差して四つに組み止めた。その後右上手を取り、がぶって出るも豪ノ山に残され、右上手も切れた。しかし今度は右おっつけから相手の上体を起こすと最後は押し倒して初優勝を決めた。

 結果論だが、相手が豪ノ山というのが尊富士にとってプラスに働いたかもしれない。確かに豪ノ山の強烈な突進力は脅威である。しかし相手の立ち合いを止め、組み止める事ができれば・・・という望みはあったと思う。そして相手のぶちかましを張り手で止め、左を差した時点で勝ったと思った。土俵際で残されたものの、一気に体を預けず、体勢を立て直したのも実に尊富士らしい。頭ではなく体がしっかり覚えており、稽古ができている証拠である。

 あとは気力と精神力の強さである。動画を見ても当然だが右足に力が入っておらず、浮かせ気味だった。千秋楽で優勝が懸かっていなければ休場のレベルである。しかし状態を把握した上で最善を尽くし、自らの手で優勝を手繰り寄せた。神様は最後に試練を与えたが、立ち合いで変化するでもなく、突き落とすでもなく、堂々とした相撲内容で乗り越えた。どれだけ褒めても褒め足りないくらいである。強い気持ちが110年ぶりの新入幕優勝の快挙をもたらした。

続く