2024年3月場所を振り返って 優勝争い 14日目 尊富士-朝乃山戦

 14日目の注目は勿論尊富士と朝乃山の一番である。過去13日目を終えて二差を逆転された例はなく、尊富士が圧倒的に有利な状況である。しかし協会側は千秋楽まで優勝争いがもつれて欲しいと思っているはずであり、その意味で朝乃山にかかる期待は非常に大きい。元大関というだけでなく、去年の9月場所は千秋楽に熱海富士に勝ち、熱海富士の優勝を阻止した実績がある。また西前頭筆頭であり、三役復帰に向けても大事な一番である。尊富士が強いのは分かっており、結果は勿論だが、朝乃山が尊富士に対してどういう相撲を取るか、内容にも注目していた。

 相撲は尊富士のぶちかましを朝乃山が受け止め、右を差すと左はおっつけた。その後尊富士が朝乃山の右下手を嫌い、尊富士が左からいなしたところを朝乃山が一気に寄り切った。

 この一番は立ち合いが全てだった。まずは朝乃山が鋭い踏み込みを見せ、尊富士の出足を止めた。そして尊富士は押し相撲が得意だが、右はおっつけ、左はハズ押しの形が多く、前に出ると右は上手、そして左は差す形となる。よって左四つが得意と言ってもおかしくない。その尊富士に対して朝乃山は左胸から当たるようにして尊富士の左差しを防いだ。そして朝乃山は右四つが得意であり、けんか四つになることを想定して、立ち合いで右を差すことだけに神経を集中させた。それが見事に成功した。また審判部の期待に応え、尊富士に黒星を付けた。

 一方の尊富士は逆に左を差されたことが敗因である。唯一敗れたのは右を抱え込まれて投げられた豊昇龍戦だけであり、四つに組まれるとやはり苦しくなる。また出足で圧倒するのが尊富士の相撲だが、朝乃山に持ち味を消されてしまった。尊富士寄りよりも朝乃山を褒めたい内容だったと言える。

 問題は黒星よりも右足を痛めたことである。右足を気にしながらゆっくりと歩き、呼出の手を借りながら土俵下へ下りて行った。その後花道でも付き人の肩を借りながら歩を進め、用意された車椅子で運ばれる事態となった。

 映像を見ると朝乃山に右四つに組まれ、寄られた際に右足をひねったように見えた。その後下がりながら左右に振った際に痛めた右足に朝乃山の体重が加わって悪化させたのではないかと見ている。また後半戦は役力士など実力者との取組が続いており、蓄積疲労も十分考えられる。最終盤でのまさかの事態に館内は異様な雰囲気に包まれた。

続く