2024年3月場所を振り返って 優勝争い 11日目 尊富士ー琴ノ若戦

 11日目は尊富士は2敗の琴ノ若との取組となった。この一番に尊富士が勝てば琴ノ若は3敗となり、優勝争いから大きく後退する。よって新入幕優勝が更に近づく。一方琴ノ若は大関陣の先陣となったが、ここまでの成績を考えると最後の砦とも言っていい存在である。大関として絶対に負けられない一番となった。また尊富士の鋭い出足が琴ノ若に通用するかが注目された。

 相撲は尊富士の鋭い当たりを琴ノ若が受け止め、尊富士の出足を止めた。これで私は琴ノ若が勝ったと思った。そして本人もそう思ったかもしれない。しかし尊富士も流石である。通用しないと分かると自ら下がり、右に体を開いた。その後両者の間隔が空き、琴ノ若がもろ手で突いた。そしてもろ手で脇が開いた隙を尊富士が見逃さなかった。出足を生かして右を一気に深く差すと腕を返し、一気に寄り切った。結果的には立ち合いの出足では持って行けなかったものの、体勢を立て直してから一気に琴ノ若を土俵の外に運び、持ち味を発揮した。

 尊富士はこの日に関しては相撲の上手さが光った。立ち合いで当たり負けした後の自ら下がる動きは宇良を観ているようだった。絶妙な間隔を取ったことが勝因の一つである。もう一つはその後の攻めである。一気に差すのではなく、相手の上体を浮かせてから深く差している。土俵際の詰めも見事としか言いようがない。

 一方琴ノ若は相手の出足を止めたところまでは良かった。しかし間隔が空いた後にもろ手突きを選択したのは疑問が残る。勝負事にたらればは禁物だが、もし琴ノ若が右か左のどちらかを差して体を寄せていれば流れが変わっていたはずである。結果として中途半端な攻めをしたことが琴ノ若にとっては命取りとなった。また攻め方に甘さが出てしまった。そしてこういった相撲を場所に1,2番くらい取ることがあり、厳しい相撲を自ら意識して取る必要がある。精神的な部分で甘さを露呈した一番となった。

続く