2024年1月場所個別評価 照ノ富士

 今場所は13勝2敗という成績で4場所ぶり9回目の優勝を果たした。11月場所後の冬巡業は休場し、部屋での稽古再開も12月下旬ということで復調途上であり、スタミナ面が懸念された。そして出場を決めたのはギリギリの初日の3日前だった。師匠の伊勢ケ浜親方は「稽古量が足りておらず、やってみないとわからない」とコメントしていた。その言葉通り初日の土俵では上半身に張りがなく、不安を抱えた中でのスタートとなった。前半戦は白星スタートも2日目は長い相撲の末に若元春に寄り切りで敗れ、早くも土がついた。そして7日目は正代に寄り倒しで敗れて二敗目となった。二つ目の金星配給であり、上位戦を残しているので優勝はおろか、千秋楽まで相撲が取れるか心配になるくらいだった。

 しかし8日目、9日目と白星を重ねると10日目からは動きが格段に良くなった。また優勝への手応えがあったのだと思う。12日目と13日目の取組後は自身のことだけでなく、対戦相手だった大の里と琴ノ若について語っていた。そして琴ノ若戦は力の違いをまざまざと見せつけ、横綱として立ちはだかった。

 唯一のハードルは千秋楽の霧島戦だった。過去は横綱の10戦全勝だが霧島は綱取り場所であり、力を付けてきているのは明らかである。また秋巡業では筋力トレーニングを教えるなどして間近で見てきており、警戒していたものと思われる。しかし結果は横綱の圧勝に終わった。そして琴ノ若との優勝決定戦は二本差されるも右を巻き替えた後に左も巻き替え、万全の体勢で寄り切って復活優勝を果たした。

 内容に関しては立ち合いの圧力に自信がなかったからかもしれないが、手繰ることが多かった。相手の腕を引っ張り、横に向かせてから上手を取っていた。しかし尻上がりに調子を上げ、後半戦は自分の相撲が取れていた。年齢は32歳であり、場所を通して体調を維持するのは厳しい年齢である。しかし今場所は結果的には体調を上向かせながらの優勝だった。本人が言うように最適な調整法がつかめたのではないかと私も感じている。結果は勿論だが、収穫もあったと言えそうだ。

 3月場所前は巡業がなく、できれば来場所で優勝回数10回を達成したい。体調さえ良ければまだまだ一人横綱として活躍できそうである。特に四つになるまでの技の引き出しは他の力士に比べて圧倒的に多い。四つ相撲で対抗できる力士はおらず、上を目指す力士はそれ以外の相撲に活路を見出すしかない。また横綱とはいえ、霧島と琴ノ若に格の違いを見せつけたが、番付最上位の力を示しただけでなく、二人のためにもなっているはずである。簡単には上には上がれないことを横綱は教えてくれた。腰や膝の不安はなくならないと思うが、若手力士が成長するまでもうひと踏ん張りして欲しい。そして優勝回数10回に止まらず、1回でも優勝回数を伸ばすことを期待したい。