勝負はここから! 熱海富士 私が観た印象
私的には幕下時代から注目していた。立ち合いの当たりは強くないものの、体の柔らかさを活かして右四つに組み止める相撲を取っていた。当時から体は大きかったものの体幹はできておらず、少し時間がかかるものと思っていた。しかしスルスルと番付を上げ、負け越し知らずで新十両となった。これには驚いた。師匠の伊勢ケ浜親方も同じような見方をしており、体ができる前に十両に上がってしまったと言っていた。母子家庭で育っており、ハングリー精神が新十両を早めたのかもしれない。
その後2022年11月場所で新入幕となった。しかしこの時点でも体幹はできておらず、生まれ持った素質と能力だけで上がったようなものである。結局この場所は初の二桁黒星となり、一場所で十両陥落となった。
13勝を挙げた2023年5月場所あたりからようやく体幹ができてきたという感じである。またそれに伴い立ち合いの当たりが強くなったので相撲に安定感が出てきた。
2023年9月場所に再入幕した後は二場所連続で11勝を挙げ、いずれも敢闘賞を受賞した。特に11月場所で11勝をマークしたことが大きい。9月場所は優勝争いを演じる活躍をしており、知名度が上がった。普通なら対戦相手に研究され、次の場所はお返しを食らうものである。しかし11月場所は9月場所以上の活躍を見せた。多くの若手力士が平幕中位の番付で跳ね返される中で乗り越えてきたことは評価できる。
また生まれ持った素質だけでなく、考えながら相撲を取っているのがよく分かる力士である。しかしかわいい顔とは裏腹にしたたかな相撲を取っているという印象である。11月場所は大関豊昇龍と元大関の高安に勝ったが、いずれも相手の出方を頭に入れ、それに対応するような相撲を取っていた。少なくとも並の若手力士にできることではない。また頭で考えていても土俵で発揮できるとは限らない。土俵上でも考えたことを実行できるのが熱海富士の凄さである。
続く
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