2023年11月場所個別評価 貴景勝

 今場所は3度目の綱取りの場所となったが9勝6敗という成績に終わった。3連勝スタートを切ったが4日目は明生に敗れて初黒星。その後7日目は豪ノ山、8日目は朝乃山に敗れて3敗となり、この時点で綱取りが消滅した。しかしその後は持ち直し、12日目に勝ち越しを決めた。終盤は連敗し、9勝で場所を終えた。

 場所直前に首を痛めて稽古を控えており、その影響が心配されたが初日、2日目はいずれも先場所敗れている北勝富士、正代に勝ち、内容的にもまずまずのスタートを切った。しかし前に出て圧倒するような相撲は取れず、結果以前にこの内容では綱取りはおぼつかない。明生戦は引いて決めたかったところを残され、結果的に引く動きが相手を呼び込む形での黒星となった。また勝った相撲も駆け引きで勝ったという内容もあり、ギリギリの相撲ではその中で勝ったり負けたりという結果になるのは当然である。

 それでも後半戦に入っても気持ちを切らさず、気力を振り絞って土俵に上がり、大関としての役割は果たしたと私は思っている。過去二回の綱取り場所はいずれも途中休場で綱取りから一転カド番となっている。しかし今場所は千秋楽まで取り続けた。その意味では進歩したと言える。

 さて今年の貴景勝は二度優勝し、二回綱取りに臨んだ一方、5月場所はカド番で8勝7敗で辛うじて勝ち越すなど浮き沈みの激しい一年となった。私が評価したいのは大関という地位で年二回優勝を果たしたということである。最近の記憶がなかったので調べてみたが、2012年の日馬富士が二場所連続で優勝して以来11年ぶりである。ちなみに日馬富士は連続優勝後横綱に昇進している。大関でも高安のように優勝できない力士もいる中で既に4回優勝しており、実績的には横綱を目指す資格は十分持っている。綱取りに関してはいろいろ言われることが多いが、安定感にはやや欠けるものの、強い大関であるということを忘れてはいけない。

 来場所は綱取りは振り出しに戻るが、大関なので優勝すれば必ず綱取りのチャンスが巡ってくる。確かに手足が短く、四つ相撲が取れないという点では綱取りに関してはマイナスである。しかし二場所連続優勝し、内容が伴えば綱取りの可能性は十分ある。それでも優勝しなければ始まらないのでまずは優勝である。霧島、豊昇龍が力を付けてきているとはいえ、まだまだ二人には負けられない。できるだけ早い時期での優勝と再度の綱取りを期待したい。