2023年9月場所個別評価 翠富士

 今場所は東前頭9枚目だったが10勝5敗という成績だった。7日目までは2勝5敗と黒星が先行した。しかし8日目からは白星を並べ、三場所ぶりの二桁勝利となった。役力士との対戦がなかったのは久しぶりであり、その中での二桁勝利は当然である。また後半戦に白星を並べたというのはそれだけの地力があり、稽古十分ということでもある。

 内容に関しては勝った十番のうち六番が肩透かしで勝っており、技がよく決まっていた。また番付が下がったので土俵際での肩透かしは少なく、土俵中央で決めていた相撲が多かった。本来は相手の懐に入ってからの投げ技や足技も持っており、肩透かしだけの力士ではない。ただ幕内最軽量の117キロであり、他の力士との体重差を考えると肩透かしで仕留めるのが一番の近道ということかもしれない。それでも肩透かしは前に圧力を掛けてこそ決まりやすい技である。苦し紛れに繰り出したり相手に読まれたりすると一気に土俵の外に運ばれるリスクがある。前に出る意識は持っているので大丈夫だとは思うが、肩透かしありきの相撲は取って欲しくないところだ。

 当然だが小兵力士ということで勝てば館内が盛り上がる。9日目の湘南乃海戦は立ち合いから二本差し、懐に入るとすぐに右に回り込んでの巻き落としを決めた。アベマで解説を務めていた元千代の国の佐ノ山親方によると自身も対戦があり、自分が思っている以上に速いようである。また速すぎて体が反応しないと語っていた。やはりスピードが武器のようである。また11日目の佐田の海戦は立ち合いから右を深く差し、一気に前に出た。すると佐田の海は思い切って体を開いて上手投げで逆転勝ちを狙った。しかし佐田の海の左足に足を掛けてこらえると左手で頭を押さえ、掬い投げで仕留めた。佐田の海は土俵際の投げを得意としており、スピードがある上に思い切りがいいので技が決まりやすい。しかし翠富士は佐田の海の投げに瞬時に反応し、上手投げを返す形で最後は佐田の海を裏返しにした。館内からも拍手喝采だった。

 11月場所は西前頭5枚目となったが勝ち越しだけでは物足りないので再度の二桁勝利を期待したい。そして目指すはやはり新三役である。力量的には前頭筆頭まで番付を上げており、あと一歩のところまで来ている。あとは番付を上げた時にそのチャンスを掴めるかどうかである。上位力士は星の潰し合いをしているといった状況であり、混戦状態の間に割って入る活躍を求めたい。