千代の国引退について 相撲の取り口

 相撲の取り口に関しては激しい突き押し相撲をメインに右四つの相撲も取っていた。一時は右四つの相撲が中心になりかけたが、最後の方は再び突き押し主体になったという印象である。そしてもう一つの特徴が残り腰に任せた相撲である。二丁投げ、つまり自分の右(左)足を相手の右(左)足の外側に当て、払うように投げる技を決めたこともあった。また二丁とは二本の足の事である。柔道の払い腰や大外刈りと似ている。千代の国は柔道経験者であり、土俵際に追い詰められた後の投げ技が多かった。また無茶な体勢ではあるのだが思い切りがいいので時に投げ技が決まっていた。特に十両の土俵では土俵際の投げが決まっていた記憶がある。個人的には千代の国が土俵際に追い詰められた時は何かあるかもしれないと思いながら相撲を見ていた。そして簡単に土俵を割る場面で粘りを見せるのが千代の国の相撲でもあった。

 しかし無茶な相撲は一歩間違うと大怪我につながる。それを象徴したのが先述した2013年7月場所5日目の碧山戦である。立ち合いで千代の国が左に変化し、右四つに組み止めた。しかし碧山が千代の国の左上手を切ると反撃し、一気に寄った。しかし千代の国は体勢を低くすると右から掬い投げを打ち、碧山が転がった。しかし投げを打った際にはほぼ水平に開脚しており、取組後は呼出に抱えられて土俵下に降りた。相撲は碧山に軍配が上がったが物言いが付き、軍配差し違いで千代の国の勝ちとなった。しかし千代の国は左脚を痛めていたので土俵に上がれず、そのまま車椅子で花道を下がるという異例の事態となった。碧山は何一つ危険な相撲は取っておらず、自らが怪我を招いた相撲だった。こういった相撲を取る力士は当然ながら他にはおらず、そういった意味での存在感は際立っていた。また上位力士相手には残り腰は全く通用しなかった。残そうにもスピードで圧倒されては残しようがない。

続く