2023年5月場所個別評価 琴ノ若

 今場所は8勝7敗で勝ち越した。3連勝スタートも4日目からは連敗し、前半戦は3勝5敗で折り返した。そして後半戦は12日目に錦木に敗れて7敗となり、勝ち越しに向けて後がなくなった。しかし終盤は平幕相手に白星を並べ、千秋楽に勝ち越しを決めた。

 内容に関しては右四つの相撲をメインに対戦相手によって相撲を変えていた。また4日目からの5連敗のうち4敗が関脇に負けたものだった。今場所の4関脇は全て二桁勝利となったが、内容も充実しており、霧馬山は大関に昇進した。4関脇との対戦を見ても負けただけでなく、善戦はするもののあと一歩及ばないといった相撲が多かった。結果的には4関脇に勝てなかったのが全てと言っていいと思う。

 それでも10日目の照ノ富士戦は勝てなかったものの土俵際で二本差し、横綱が巻き替えに来たところを一気に寄り、あと一歩のところまで追い詰めた。そして3連勝で勝ち越しを決めた部分である。本人が「星勘定をしていたら、いい相撲は取れない」と語っているが、言葉の通り自分の相撲を取ることに集中している。またこの集中力は今場所に限ったことではない。星勘定的に追い詰められても表情を表に出さず、落ち着いて相撲が取れるのが琴ノ若の持ち味の一つである。時にお坊ちゃん気質が出て情けない負け方をすることもあるが、番付が懸かる一番になると勝負強さを発揮するのが琴ノ若という力士である。勝負強さは父の元関脇琴ノ若よりも祖父の元横綱琴櫻から受け継がれたものだと私は思っている。

 7月場所は再び小結での土俵となるが、上を目指すにはもう少し時間がかかりそうだ。年齢は25歳と若く、今は頑張って大関を目指すというよりも三役の地位を守りつつ、力を蓄える時期である。一番はやはり馬力の強化である。負けたものの横綱戦のような一気に前に出る相撲をもっと増やしたい。また三関脇が大関獲りの場所になるが、ある程度決着が付いた後で上を目指すということになりそうだ。まだ底は見せておらず、今後期待できる存在である。