2023年5月場所を振り返って 優勝争い その7

 14日目。3敗の朝乃山は正代との対戦だった。立ち合いから左上手を狙うが取れず、それでも左からおっつけて一気に前に出た。正代は土俵際に詰まったが二本入り必死にこらえた。そして左掬い投げを打つも朝乃山が体を預けるような形で寄り倒し、3敗を守った。また何とか優勝への望みをつないだ。

 そして結びの照ノ富士と霧馬山の一番。過去は照ノ富士の9戦全勝であり、霧馬山はまだ横綱に勝っていない。内容的には霧馬山が食らい付く形は作るものの、少しずつ上体を起こされ、最後は負けるといった展開が多い。理想は今場所照ノ富士に勝った明生のように押し込んでから動き回るのが一番だが、霧馬山は明生ほどのスピードはなく、攻めの引き出しも持っていない。ということで力の差は詰まってきているものの、横綱の方が有利だと私は見ていた。

 相撲は立ち合いから霧馬山が頭から当たり、左ハズで押し込んだ。一方照ノ富士は右から抱え込もうとするが抱えられず、攻められながらも腰を低くして守りの体勢を作った。その後はじりじりと圧力を掛けて押し返し、右の上手を取り、左も差し込んだ。一方霧馬山は右上手を取られたことで動きを止められてしまった。この時点で私は照ノ富士の勝ちだと思った。四つに組み合えばやはり横綱の方が力が一枚上である。最後は巻き替え合いとなったが照ノ富士が左上手を取って前に出ると同時に霧馬山の左上手を切り、右手はのど輪押しのような形で寄り切った。そして8度目の優勝を決めた。

 照ノ富士の側に立てば腰を低くする体勢を保てたことが勝因である。膝の状態が良くなければ姿勢が保てる訳がない。逆に膝の状態が悪ければ押し込まれた時に一気に後退といったこともあったかもしれない。一方霧馬山の側に立てば思い通りに攻めた結果であり、力負けである。改めて横綱との力の差を痛感したのではないだろうか。ただ照ノ富士が膝に爆弾を抱えているのは事実であり、今後も今場所のような相撲が取れるかは分からない。この結果を受け入れる一方、立ち合いの圧力の更なる向上を期待したいところだ。

終わり