2023年3月場所個別評価 正代

 今場所は西前頭筆頭だったが10勝5敗の好成績だった。前半戦は三関脇を破る活躍もあり、6勝2敗で折り返した。そして後半戦は9日目から3連敗し、優勝争いからは脱落した。しかし12日目からは再び白星を並べ、4場所ぶりの二桁勝利となった。

 まずは場所前だが右足親指の状態が回復し、十両昇進が懸かる幕下の時疾風と三番相撲を取るなど復調が伝えられていた。しかしそれまでの本場所での内容が良くなかったので私としては半信半疑といったところであった。

 そして本場所では初日の豊昇龍戦は立ち合いで左前廻しを取られながらも構わず右のど輪で相手の上体を起こし、一気に押し出した。2日目の霧馬山戦は押し込まれたが左を差し、差し手を返すと一気に前に出て最後は押し倒した。3日目は貴景勝に負けたが4日目の若隆景戦は立ち合いの攻防から左をこじ入れると一気に前に出て最後は突き放して押し出した。土俵際の詰めも完璧である。相撲の勢いも大関に昇進した頃を思い出させた。これが正代の相撲である。腰高だろうと左を差して一気に前に出る。そして廻しは取らず、最後は押し出す。本来の相撲が戻り、喜んでいるファンも多いのではないだろうか。またそれが平幕に番付を下げてからというのがいかにも正代らしいと言える。そして三番稽古を行った時疾風も勝ち越し、5月場所での十両昇進を決めた。去年の11月場所限りで豊山が引退し、関取は部屋で正代一人という状況だったので正代もさぞかし嬉しかったと思う。お互いに良い結果が出たのが何よりである。

 5月場所は小結となったが年齢は31歳であり、元大関ということを考えると本人が何を目標にして相撲を取るかが大きなポイントとなりそうだ。過去のコメントを見た限りでは大関復帰を目標にするタイプには見えない。玉鷲のように単純に上位力士と対戦することに価値を見出すのも悪くない。ただ今場所は大関候補に好内容で勝っているのは事実であり、まだ上に上がれる力が残っているのは確かである。今場所のように貪欲な姿勢で一番でも多く勝つことを期待したい。