2023年3月場所個別評価 大栄翔

 今場所は12勝3敗の好成績で二度目の技能賞を受賞した。6連勝スタートと初日から勢いに乗った。7日目に若元春に敗れるも9日目は玉鷲を突き倒しで破り、早々と勝ち越しを決めた。10日目は豊昇龍に敗れ2敗となったが翌日から再び連勝し、13日目終了時点でついに単独トップに立った。14日目は3敗の翠富士に勝ち、二度目の優勝に王手を懸けた。しかし千秋楽は3敗の霧馬山に本割、決定戦と連敗し、惜しくも優勝を逃した。

 内容に関しては場所を通して自分の相撲を取り切っており、素晴らしかったと言える。2日目の若隆景戦は右のど輪で一気に押し出した。8日目の阿炎戦はもろ手突きで攻められるも下からあてがって応戦すると反撃し、押し出した。そして11日目の高安戦は立ち合いから押し込まれ、土俵際まで追い込まれたが左からいなして残ると逆に右のど輪で相手の上体を起こし、一気に押し出した。こういった粘り強い相撲が取れれば白星は自ずと増えてくる。また今場所に関しては突き落としで勝ったのは琴ノ若戦だけであり、それ以外は全て前に出る相撲で勝っている。相撲にも安定感があり、この内容が続けば大関に上がっても十分務まると私は見ている。

 千秋楽の霧馬山戦の連敗に関しては、強いて挙げれば大栄翔は横への動きが少しだけ鈍いので、そこを霧馬山に突かれた感じがする。そうはいっても霧馬山も本割はギリギリのところでの突き落としであり、決定戦は一か八かの勝負に出て、勝ったようにも見えたが。上位陣の中に入ると横への反射神経は優れた方ではなく、突き押しやのど輪など、直線的な動きで勝負するタイプの力士である。それでも最近は突き押しを鍛えるとともに相手を見ながら押せるようになってきている。そして今後も相手を正面に置いて押せるかが課題である。決定戦は負けただけでなく、手を付いた左手を霧馬山に踏まれており、悔しさは相当のものがあったと思う。今後に活かしていくしかないし、更に強くなることを期待したい。

 来場所は場所後に八角理事長が「来場所、頑張って大関を目指してほしい」と語っていたように、ハイレベルな成績を残せば大関昇進の可能性は十分ある。二場所前は平幕での10勝だが、優勝経験に加えて関脇3場所、小結8場所を務めた実績がある。勿論二桁勝てば大関昇進の足固めとはなるが、現在一大関であり、大関へのハードルは下がりそうなので来場所後の大関昇進といきたい。そして年齢は29歳であり、このチャンスを逃すと次はいつチャンスが巡ってくるか分からない。自覚しているとは思うが、本人にとっては非常に大事な場所となる。4場所ぶりの関脇復帰となるが、関脇は一場所で卒業しての大関昇進を私としては望んでいる。