2023年3月場所を振り返って 優勝争い その4

 14日目。取組の前に大きなニュースが入ってきた。若隆景が右膝を痛めて休場となった。これにより対戦相手だった霧馬山は不戦勝となり、優勝決定は千秋楽に持ち越しとなった。疲れが溜まるであろう終盤での不戦勝であり、体力を温存できたのはプラスである。しかし過去の優勝を見ていると14日目に好内容の相撲を取り、そのままの流れで千秋楽も勝って優勝を決めるというパターンが多い。その意味でリズムの変化は懸念の材料である。いずれにしても千秋楽に大栄翔と対戦することはほぼ決まっており、本人が不戦勝をどう受け止めるかといったところだ。

 さて単独トップに立った大栄翔は3敗の翠富士との対戦となったが相手を見ながら落ち着いて突き放し、最後は突き倒した。取組後は気迫のこもった表情を見せていた。二度目の優勝に向けて気持ちにスイッチが入ったという感じである。一方負けた翠富士は気力はあるものの体が全く動かないといった状態である。連敗中だが激しい相撲は取っており、結果が出ないことで精神的なダメージも積み重なったものと思われる。これは仕方がない。

 そして結びで3敗の若元春は豊昇龍と対戦した。豊昇龍も二桁勝利が懸かっており、お互いに負けられない一番である。相撲は豊昇龍が立ち合いで右に動き、右上手を取った。若元春は右から振り回すも右上手が取れず、土俵中央で動きが止まった。次の瞬間、若元春が前に出ようとしたところを豊昇龍が右上手投げを繰り出し、若元春はたまらず土俵に転がった。これで若元春は4敗となり、優勝の可能性が消えた。一方豊昇龍は10勝目を挙げ、2場所ぶりの二桁勝利となった。また内容も敢えて右上手を取り、相手得意の左四つに組むという点で考えた相撲を取った。右上手を取ったことで相手に左差しを許しても力を発揮させなかった。そして右上手は絶対与えず、早く勝負を付けることに徹した。年齢は下だが三役経験が豊富という部分で豊昇龍の方が一枚上手だった。14日目終了時点で2敗は大栄翔、3敗は霧馬山となり、優勝争いは2人に絞られた。そして星一つ差での千秋楽直接対決となった。

続く