2022年9月場所個別評価 平戸海

 水戸龍同様、新入幕で西前頭16枚目という番付だったが7勝8敗で負け越した。3連勝スタートとなったが4日目からは3連敗し、前半戦は4勝4敗で折り返した。そして後半戦は13日目に7勝目を挙げるも残り2日は連敗し、惜しくも勝ち越しは成らなかった。

 内容に関しては立ち合いで左前廻しを取っての相撲は力強かった。一方負けた相撲に関しては相手が左前廻しを取られないように変化や引き技などで対応してきた。警戒されたということで負け越したものの爪跡を残すことはできたと思う。あとは立ち合いの強さに波があったので、15日間コンスタントに鋭い立ち合いをすることが今後の課題である。

 一番印象に残ったのは13日目の琴恵光戦である。立ち合いから得意の右四つに組み止め、有利な形を作ったかに見えた。しかし琴恵光に左上手を切られると形勢が逆転。一気に寄られたところを右からの投げで何とか残すと体が離れた。そして琴恵光が再び右四つに組み止めて一気に寄ってきたところを左からの突き落としで逆転勝ちした。特筆すべきは粘り強さと諦めない姿勢である。体勢が悪くなっても動き回り、自分にできる精一杯のことをする。その姿勢が見えるので観ている方も気持ちがいい。そして稽古が積めていなければ取れない相撲である。一方、解説の北の富士さんが指摘していたが、四つに組み止めてからの攻めが遅い。対戦相手の琴恵光は小兵力士とはいえ、平戸海も身長178センチと高くない。また頭を付けておらず、四つに組んだ時は懐に入っての速い攻めが求められる。その点で反省点が残った一番でもあった。

 さて新入幕力士ということで改めて紹介したい。平戸海は長崎県平戸市出身で境川部屋所属であり、年齢は22歳である。身長178センチ、体重135キロであり、押し相撲と右四つの相撲を得意としている。今場所は左前廻しを取りに行く相撲が多かったが、突き放してから右を差す相撲も多い。そして最近では少なくなった中卒の叩き上げというのも魅力である。所属する境川部屋には他に幕内力士は佐田の海と妙義龍がおり、稽古の環境に恵まれている。そして厳しい師匠の下、前に出る相撲を徹底的に叩き込まれているものと思われる。しかし環境だけではない。北の富士さんがコラムで書かれているように気力が並ではない。今どきの若者にこんな人がいるのかと驚いてしまう位である。そして気力だけでなく、筋肉の盛り上がりが半端ではない。おそらく筋トレではなく、稽古で鍛え上げた体である。先場所はコロナ感染者が多数出て、その影響で恵まれての新入幕となったが7番勝ったあたりに急速に力を付けてきているのが分かる。今では死語となったがハングリー精神を持っており、この先が非常に楽しみな力士である。

 来場所は本来なら十両陥落となるところだが、幕内下位に大負けした力士が複数おり、また十両上位で好成績の力士が少ないのもあり、番付据え置きとなりそうだ。改めて勝ち越しを狙いたい。また長崎県出身ということで来場所はご当所でもある。気迫あふれる相撲を取るタイプなので九州の人には受けが良さそうである。結果だけではなく、自分の相撲を取って地元の人にアピールしたい。強くなるだけでなく、人気力士になりそうな予感がする。