2022年3月場所個別評価 琴ノ若

 今場所は11勝4敗の好成績で2場所連続3度目となる敢闘賞を受賞した。3連勝スタートを切ったが特に初日は北勝富士、2日目は宝富士という実力者をいずれも力強い相撲で破り、活躍を予感させた。そして4日目は高安に敗れたものの5日目からは再び連勝し、9日目に早々と勝ち越しを決めた。11日目からは上位力士との対戦となったが11日目は貴景勝、12日目は若隆景に敗れて3敗となり、優勝争いから後退した。しかし13日目からは正代、御嶽海の二大関を破り、優勝の可能性を残して千秋楽を迎えた。千秋楽は勝てば優勝決定戦進出の可能性を残す一番となったが豊昇龍に下手出し投げで敗れて4敗となり、優勝の可能性が消滅した。

 内容に関しては四つにこだわらず、前に出る相撲で白星を挙げていた。そして前に出る圧力が一段と強くなってきている。決まり手を見ても勝った11番中5番は押し出しで勝っており、廻しにこだわらない姿勢が表れている。また攻める時も腰をしっかり下ろしているので相撲に安定感があるし、焦りが見えない。そして体が柔らかいのでこの先が非常に楽しみである。

 その一方で少し気になったのが立ち合いで少しずれるように当たった相撲が見られた点である。高安戦、貴景勝戦、正代戦、御嶽海戦といずれも番付上位や実績のある力士相手に注文相撲を取っていた。勿論注文相撲自体は悪いことではない。しかし琴ノ若は将来のある24歳の若手力士である。注文相撲を取るくらいなら、正面からまともにぶつかり、上位力士の実力を肌で感じ取るのが私はいいと思うのだが・・・。それよりも目先の白星を取りに行ったことに今後に向けて少しだけ不安を感じてしまう。特に貴景勝は高校時代の一年先輩に当たる。立ち合いから張って右にずれるのは度胸はあるのかもしれないが、大関が逃げないのは分かっており、その意味でも勝ち負けは別にして、正々堂々の勝負が観たかったところである。一方今場所初優勝を果たした若隆景は貴景勝のぶちかましと叩きを凌ぎ、最後は寄り切った。上を目指すのであれば、若隆景と同じくらい強い気持ちを持って臨んでほしいというのが私の考えである。

 さて5月場所は自己最高位を更新し、西前頭2枚目となった。2場所連続千秋楽まで優勝争いに絡んでおり、実力を兼ね備えているのは分かっている。あとは自分の相撲を取ることだけに集中すれば結果は後からついてくる。今の相撲を続ければ三役は目標ではなく、ただの通過点に過ぎない。そして繰り返しになるが、できればずれるような立ち合いは控えてほしい。まずは相手に全ての力をぶつけるような相撲を期待したい。ずれるような立ち合いは経験を重ねてからもできることである。あとは過去に膝を痛めたことがあるので怪我には注意したい。そして怪我をしないためにも今場所のような前に出る相撲が求められる。