投稿者: T-マネ

  • 2024年11月場所個別評価 豪ノ山

     今場所は西前頭8枚目だったが11勝4敗の好成績だった。黒星スタートも2日目からは連勝し、7日目から連敗ということで前半戦は5勝3敗で折り返した。そして後半戦は再び連勝すると13日目は霧島を押し出しで破り、4場所ぶりの二桁勝利となる10勝目となった。そして千秋楽は殊勲賞受賞の阿炎を押し出し、自己ベストとなる幕内11勝目を挙げ、場所を終えた。

     内容に関しては突き・押しの相撲には安定感があった。前半戦の黒星3つのうち翠富士戦と遠藤戦は注文相撲であり、実力を認めていることの裏返しとも言える。勝った相撲に関しては6日目の隆の勝戦はぶちかまして押しこんだが土俵際で右を差され、寄り返された。しかし右へ体を開いて引き落とし、隆の勝に初黒星を付けた。隆の勝相手に当たり勝ちしており、能力の高さを見せつけた。12日目の宝富士戦は右脇を固めて突き起こすと宝富士の左差し狙いを右からのおっつけで許さなかった。その後は細かく突き放し、最後は突き倒した。そして千秋楽の阿炎戦は阿炎が立ち遅れたのもあったが、阿炎のもろ手を封じると引きに乗じて押し出した。ただ場所を通して見れば相手に引かせる相撲は少なく、千秋楽のような内容の相撲を増やしてほしいと個人的には思っている。

     さて今年1年を振り返ると三役に上がれなかっただけでなく、平幕上位での勝ち越しもなかったということで壁にぶつかった1年だった。一方番付を下げれば今場所を含めて2度二桁勝利を挙げており、地力があるのは確かである。まだ腰の位置が高い印象もあり、今後に向けては圧力の強化が課題となりそうだ。

     来場所は上位力士と対戦する番付となるが、試金石の場所となる。また年齢は26歳だが、三大関と比べれば琴櫻よりは年下だが豊昇龍と大の里よりは年上であり、成長力を考えれば決して楽観できる状況ではない。来年は最低でも三役に昇進し、三大関を追いかける1年にしたい。問題は熱海富士同様、三役力士に勝てるかどうかであり、間に割って入れるかどうか。来年が大事な1年になることは間違いない。

  • 2024年11月場所個別評価 隆の勝

     今場所は11勝4敗の好成績で4回目の敢闘賞を受賞した。5連勝スタートを切ると6日目は豪ノ山に敗れて初黒星となった。しかし翌日からは連勝し、9日目に勝ち越しを決めた。そして11日目は大の里を押し出しで破り、琴櫻、豊昇龍とともに首位を並走した。しかし12日目は霧島に敗れて2敗目となり、二大関が勝ったため優勝争いから後退した。13日目は琴櫻に上手投げで敗れて3敗目となり、この時点で事実上優勝の可能性が消えた。14日目は大栄翔に敗れて3連敗となったが千秋楽は若隆景を叩き込みで破り、敢闘賞受賞を決めた。

     内容に関しては右のど輪の攻めと右差しの相撲には力強さがあった。素晴らしかったのはやはり11日目の大の里戦である。立ち合いで珍しく左にずれると右のど輪で大の里の上体を起こし、まともに引いてきたところを一気に押し出した。快勝であり、大の里の右差しを封じた内容も見事だった。

     もう一つ印象に残ったのは守りの相撲である。千秋楽の若隆景戦は土俵際で叩き込み、逆転勝ちだった。また今場所は千秋楽を含めて叩き込みで3番、突き落としで1番勝っており、不利な体勢からの逆転勝ちも多かった。今までは不利な体勢になるとそのまま土俵を割ることが多かったが、今場所は相撲に粘りがあった。どうやら瞬発系のトレーニングを取り入れた工夫が奏功したようである。攻めだけでなく、守りにも生かされていた。

     その一方で厳しく言えば、精神面の甘さを垣間見せたのも事実である。残念だったのは12日目の霧島戦である。立ち合いでの霧島の左からの張り手にカッとなって頭に血が上り、我を忘れたかのように張り返した。しかし右からの張り手が空振りしたところでバランスを崩し、最後は押し出された。私としては張り差しは頭に入れておいて欲しかったし、そうでなくても落ち着いて対処して欲しかったと思っている。優勝争いに関しても琴櫻と豊昇龍は絶好調であり、痛かったのは言うまでもない。初優勝に向けてはもう一段の精神面の成長が不可欠である。

     来場所は2場所ぶりの前頭筆頭となりそうだが、勝ち越しての三役復帰といきたい。かつての大関候補であり、能力は高い。しかし勝ち出したら手が付けられなくなる一方負け出したら止まらないというツラ相撲であり、フタを開けてみなければ分からないタイプである。よって初日から上位力士を倒し、勢いを付けられるかが三役復帰に向けてのポイントとなりそうだ。

  • 2024年11月場所個別評価 翔猿

     今場所は東前頭5枚目だったが9勝6敗で勝ち越した。5枚目という番付であり、7日目までは平幕力士との対戦となったが5勝2敗と白星が先行した。8日目からは役力士との対戦が多くなると黒星が増え、6勝6敗の五分となった。終盤は連勝し、14日目に勝ち越しを決めると千秋楽は湘南乃海を押し出し、9勝で場所を終えた。

     内容に関しては翔猿らしい押し相撲と叩く相撲で白星を挙げていた。2日目の美ノ海戦は押し合いといなし合いの激しい攻防となったが最後は土俵際で左足一本で残し、右に回りながら転がした。マゲつかみの物言いが付いたが引っ張っておらず、軍配通りとなった。7日目の錦木戦は押し合いといなし合いの後互いに見合う形となったが、翔猿が手を出しながら押すと懐に入り、押し出した。9日目の宇良戦は右を差して徐々に上体を起こしたが逆に宇良に右を差され、振りほどかれた。その後低い体勢で見合う形となったが翔猿が左にいなすと宇良が横を向いたところで送り出した。これで幕内での対戦成績は翔猿の9勝4敗であり、上手さで勝っている印象がある。そして千秋楽の湘南乃海戦は押し合ったり見合ったりの展開となったが、蹴返しで揺さぶったのが効いた。湘南乃海の腰が引けた感じとなり、最後は相手を見ながらゆっくりと押し出した。時間は37秒かかったが、長い相撲の中で足技を繰り出すあたりは稽古を積んでいる証拠である。

     さて今年1年の翔猿は前頭5枚目以内の番付に定着していたものの、三役には昇進できなかった。今場所も役力士との対戦があったものの勝ったのは正代戦のみであり、三役復帰に向けてはどれだけ役力士を倒せるかが鍵となりそうだ。そして来年も三役昇進を懸けた戦いとなる。

     来場所は再度の上位総当たりの番付となりそうだが、1人でも多くの役力士を倒して流れに乗りたい。特に三役の4人はいずれも実力者であり、勝敗が場所を大きく左右しそうである。まずは相手の動きを止め、駆け引きの上手さを生かせる展開に持ち込みたい。地力はあるのであとは結果が出るかどうかであり、再度の三役昇進といきたいところだ。

  • 2024年11月場所個別評価 熱海富士

     今場所は8勝7敗で勝ち越した。4連勝スタートも5日目からは6連敗し、黒星先行となった。6連敗のうち5敗は役力士であり、上位力士には通用しなかった印象である。ただ6日目の豊昇龍戦は勇み足での黒星だった。熱海富士の左足が出た時には豊昇龍の体がないようにも見え、私的には取り直しではなく、熱海富士の勝ちでも良かったのではないかと思える一番だった。11日目からは巻き返すと千秋楽は御嶽海を寄り切り、4場所ぶりの勝ち越しを決めた。

     内容に関しては左四つに組み止める相撲で白星を挙げていた。本来なら勝った相撲を褒めたいところだが平幕上位に定着しており、地力があるのは分かっている。ということでどうしても負けた相撲の方に目が行ってしまう。気になったのは6日目の豊昇龍戦と9日目の霧島戦である。豊昇龍戦は押し合いから豊昇龍が右を差したところで左から抱え込み、動きを止めた。そして右のど輪で押しこむも豊昇龍が左からあてがい、左へ体を開いたことで熱海富士の左足が出た。そして霧島戦は当たってすぐに左上手を取り、右も差して十分な形を作った。しかし霧島に連続で下手投げを打たれて残されると体を入れ替えられ、押し出された。どちらも私としては物足りない内容なのだが、共通しているのはリーチの短さである。豊昇龍戦はリーチが長ければそのまま押し出せていたのではないか。そして霧島戦は右下手が取れていれば勝てたのではないかということである。結局不十分な体勢だったので逆転負けを許してしまった。確かに熱海富士は身長187センチ、体重189キロと立派な体格をしている。しかし部屋の横綱ほどリーチは長くない。よって横綱を手本とするのは得策ではないと私は見ている。ということで磨いて欲しいのは四つ相撲ではなく、押し相撲である。体型は押し相撲であり、おっつけもできるので右四つの相撲と併用で臨んで欲しいと思っている。今のままの取り口では上に上がれば壁にぶつかるのは目に見えており、組み止める相撲は私としては取って欲しくない。理想は11日目の正代戦のようなあおって寄る速攻相撲である。この内容ならリーチの長さを気にする必要がなくなる。

     さて今年の熱海富士は三役を目前にしながら上がれないまま1年が終わってしまった。原因は本人だけでなく、横綱をはじめとして部屋で怪我人が続出し、申し合いも幕下力士相手となっている環境にもありそうだ。出稽古で力を付けるというのも一つの手かもしれない。

     来場所は前頭2枚目あたりが予想され、上位総当たりの番付となる。改めて新三役を懸けての場所となるが、三役になるためには三役力士に勝たないことには始まらない。よって大関以上に三役との対戦は意識して臨みたい。この壁を乗り越えれば一気に台頭する可能性もあり、来年は飛躍の1年としたい。

  • 2024年11月場所個別評価 阿炎

     今場所は東前頭3枚目だったが11勝4敗の好成績で2回目の殊勲賞を受賞した。初日の若元春戦は取り直しの末押し出しで敗れ、黒星スタートとなった。しかし翌日からは連勝すると4日目は新大関の大の里を掬い投げで破り、初黒星を付けた。その後7日目はここまで全勝の豊昇龍を引き落としで破った。豊昇龍は千秋楽まで優勝争いを演じており、三賞受賞の決め手となった。そして前半戦を6勝2敗で折り返すと10日目に勝ち越しを決め、優勝争いのトップを星一つ差で追走した。しかし翌日は阿武剋に敗れ、優勝争いから後退した。それでも終盤は前半戦の勢いをそのままに白星を伸ばし、11勝で場所を終えた。そして来場所の三役復帰を確実にした。

     内容に関してはもろ手突きからの突き押し相撲で白星を挙げていた。印象に残ったのはやはり4日目の大の里戦と7日目の豊昇龍戦である。大の里戦は右のど輪を止められたものの、大の里が前に出てきたところで右に回り込んで右を差し、掬って裏返しにした。大の里からすれば右差しは頭になく、虚を突かれたかもしれない。しかし以前から右四つの稽古はしており、その成果が出たようだ。また場所前の二所一門の連合稽古では唯一申し合いには参加せず、大の里の動きを注意深く観察していたようである。大の里の動きを見た上で奥の手を引き出しての白星ということで、本人が言うように全部が上手くかみ合った結果と言える。豊昇龍戦は阿炎が僅かながら早く立ち、もろ手突きから右のど輪で上体を起こすとすかさず引き、豊昇龍を這わせた。取組後は先手を取ることしか考えていなかったと語っており、してやったりといったところだ。それでもスピードで上回る豊昇龍に相撲を取らせなかったのは流石である。また10日目の平戸海戦は珍しく立ち合いで左から張り、右差しを狙った。結局四つには組めなかったものの、右へ体を開いての肩透かしで平戸海を裏返しにした。考えながら相撲を取っており、今後も場所に1番くらいは意表を突く立ち合いが見られそうだ。

     来場所は2場所ぶりの三役復帰となるが、同時に右膝の怪我から復帰した若隆景も三役復帰となる。また三役の大栄翔、若元春も実力者であり、生き残りを懸けた戦いとなりそうだ。当然三役定着を期待したいが、大関の成長と若手力士の台頭を考えれば決して楽観できる立場ではない。しかし若手力士の壁となる存在であるのは確かであり、乗り越えるのは大変である。勝負師という部分では元関脇・寺尾の先代師匠よりも上であり、何をしてくるか分からないと対戦相手が警戒する存在でもある。来年も相手に嫌がられる相撲で立ちはだかりそうであり、その相撲内容に期待したい。

  • 2024年11月場所個別評価 若隆景

     今場所は東前頭2枚目だったが10勝5敗の好成績で5回目の技能賞を受賞した。平幕上位の番付ということで初日から役力士との対戦となったが3連勝スタートを切った。4日目からの大関戦は琴櫻と豊昇龍には勝てなかったものの6日目は大の里を破り、存在感を見せた。前半戦は5勝3敗で折り返すと後半戦も白星を重ね、11日目に早々と勝ち越しを決めた。そして14日目は宇良を押し出しで破り、白星を二桁に乗せた。

     内容の前に技能賞受賞について触れたい。三賞選考委員会では千秋楽の若隆景ー隆の勝の勝者が敢闘賞受賞と提案されたようだ。これに対し、一部委員からは千秋楽の勝敗に関係なく、技能賞受賞を提案した。その後採決に移り、13票(過半数11票)で受賞が決まった。数字ではなく、相撲内容が高く評価されていることが反映されたと言えそうだ。

     内容に関しては前半は相手に引かせる相撲で、そして後半は右差しの相撲で白星を挙げていた。好内容だったのは初日の霧島戦と6日目の大の里戦である。霧島戦は押し合いから機を見て右を差すと左からおっつけて体を寄せ、粘る霧島を寄り切った。特に上手かったのは左の使い方である。霧島の右ひじを持ち上げるようにしておっつけた後体を密着させ、左上手を取った。また右が窮屈になった霧島は取組後は右手首を痛め、それが原因で負け越し、結果として2人の明暗が分かれた格好となった。大の里戦は相手の右差しを左おっつけで封じると大の里の引きに乗じて一気に押し出した。引かせるということは相手に嫌がられるということでもあり、真骨頂を発揮した一番だった。大の里にとっては今後も難敵となりそうで。

     来場所は10場所ぶりの三役復帰となり、2年ぶりの兄弟同時三役となりそうだ。また史上2組目となる兄弟同時関脇の可能性もあり、実現するか注目である。また三役で勝ち越せる力は持っており、焦点は二桁勝てるかどうかである。勿論二桁勝てば三役の地位であり、大関昇進への起点となる。少し気が早いが、大関に向けてという視点で語りたい。上位力士に関しては照ノ富士戦は幕内では相撲を取っての白星はない。しかし大関戦の幕内での対戦成績は琴櫻戦は5勝5敗、豊昇龍戦は6勝4敗、大の里戦は2戦2勝であり、互角に渡り合っている。上位戦を苦手としている若元春とは対照的である。その一方で今場所は平幕相手に3つ負けており、そのうちの1つは上位力士を倒した実績のない欧勝馬である。逆に若元春は平幕相手の取りこぼしは少なく、安定感のあるタイプである。ということで大関候補と言う視点で見ても両者は甲乙つけがたく、今後の戦いが非常に見物である。また若隆景に関しては相撲の取り口を変え、元大関・栃東のようなおっつけ主体の取り口にしたのは見事としか言いようがない。三役定着は勿論、兄とともにもう一つ上を目指してほしい。

  • 2024年11月場所個別評価 正代

     今場所は9場所ぶりの三役復帰となったが4勝11敗という成績に終わった。3連敗スタートも4日目は平戸海との九州出身対決を制し、初白星となった。そして前半戦は3勝5敗で折り返した。後半戦は巻き返しが期待されたが10日目の宇良戦に勝ったのを最後に5連敗となり、来場所は平幕に逆戻りとなった。

     内容に関しては自分の相撲は取れていたものの、結果が伴わなかったという印象である。初日の琴櫻戦は当たって左右からのおっつけで一気に攻め込んだものの土俵際で右から突き落とされた。あと一歩であり、勝っていれば流れが変わっていた可能性もある。そして10日目の宇良戦は攻め込まれたものの土俵際で右から掬って体を入れ替えると最後は押し倒した。持ち味を発揮した一番だった。

     また14日目の美ノ海戦は仕切り線の上で右足を滑らせて負けており、流れが向かなかった感じがする。勝ち負け以前に怪我をしなかったのが何よりであり、一安心である。ご当所場所で活躍できなかったのは残念だが、気持ちを切り替えて次の場所に備えたい。

     来場所は平幕上位の番付からは外れそうなので一気に攻め込む相撲で白星を重ねると同時に流れを作りたい。目指すは勿論三役復帰である。上位陣を倒し、9月場所のような活躍を期待したい。

  • 2024年11月場所個別評価 若元春

     今場所は3場所ぶりの三役となったが10勝5敗という成績だった。前半戦は5勝3敗で折り返した。そして後半戦は二大関には負けたものの終盤は連勝した。千秋楽は大栄翔を突き落としで破って白星を二桁に乗せ、大関昇進への起点を作った。

     内容に関しては押し出しで6番、押し倒しで1番勝っているように得意の左四つに組み止められず、押し相撲で対処していた。本人は不満のようだが、それだけ警戒されている証拠であり、私としては悪くないと思っている。また終盤は先場所は6連勝、そして今場所は4連勝で終えており、地力の高さを証明している。

     相撲に関しては3日目の宇良戦は宇良に左を差された上に頭を付けられ、やや勝手が悪い形となった。しかし宇良が居反りに来た瞬間、差していた左腕を抜きながら押し倒した。腕を抜くと同時に足も出しており、相撲の上手さを見せた。

     負けた相撲に関しては5日目の平戸海戦は一気に運ばれての完敗だった。大関に向けてはこういった内容は印象が悪くなるので極力なくしていきたい。そして三大関には勝てなかった。豊昇龍戦は左を差しにいったところを右から抱えられ、振り回されると一気に押し出された。大の里戦と琴櫻戦はいずれも差し手争いに敗れての完敗だった。琴櫻戦は先場所は勝っており、幕内での対戦成績も5勝9敗ということで勝てるチャンスはありそうである。問題は豊昇龍戦と大の里戦である。豊昇龍戦の幕内での対戦成績は2勝12敗と大きくリードされており、今場所を含めて8連敗中である。また大の里戦の幕内での対戦成績は1勝4敗であり、大の里の出足に圧倒されている印象が強い。今後に向けてもまずは出足を止めなければ勝機は見えてこない。よって琴櫻はまだしも、豊昇龍と大の里には今後も苦しめられそうだ。ただ上に上がるためには大関を倒す必要があり、稽古だけでなく研究することが求められる。

     来場所は4場所ぶりの関脇となりそうだが、大関昇進への足固めといきたい。また弟の若隆景が三役復帰となり、2年ぶりの兄弟同時三役となりそうだ。若隆景が来場所二桁勝利を挙げれば大関昇進への起点を作ることとなり、兄としても負けられない。そして兄弟による大関に向けた争いが激しくなりそうであり、相乗効果に期待したい。

     

  • 2024年11月場所個別評価 大栄翔

     今場所は4場所ぶりの関脇となったが8勝7敗で勝ち越した。前半戦は5勝3敗で折り返した。そして後半戦は10日目は新大関の大の里を寄り切りで破った。翌日からの大関戦は連敗したもののその後は連勝し、14日目に勝ち越しを決めた。

     内容に関しては突き押し相撲には安定感があった。3場所続けて8勝7敗という成績だが、いずれも千秋楽での勝ち越しはなく、無難に勝ち越しているという印象である。また優勝争いを演じた二大関相手には負けはしたものの一方的な負け方ではなく、実力差は大きくないと見て良さそうだ。

     印象に残ったのはまずは10日目の大の里戦である。大の里の出足を土俵際で止めると左を差し、右もおっつけながら差した。一方の大の里は肩越しの右上手一本となった。珍しく両差しの体勢となったが大の里が右上手を離すと同時に体を寄せ、一気に寄り切った。過去は照ノ富士を寄り切りで破ったこともあり、四つになっても全く相撲が取れないことはない。よって大の里の出足を止めたことが勝因であり、改めて地力の高さを示した。

     そして7日目の平戸海戦である。大栄翔のもろ手からの突きを平戸海が下から跳ね上げると真っ向勝負の激しい押し合いとなった。最後は左からいなしての叩き込みで勝ったが、先輩力士として意地を見せた内容だった。激しい攻防は見応えがあり、取組後は館内から大きな拍手が上がっていた。

     来場所は二桁勝利を挙げ、大関昇進への起点を作りたい。年齢は31歳であり、上を目指すのが厳しくなってきているのは確かだが、相撲に安定感があるのでどうしても期待したくなってしまう。おそらく同じように思っているファンもいるはずであり、二桁勝利という結果でファンの期待に応えたい。

  • 2024年11月場所個別評価 霧島

     今場所は13勝以上を挙げれば大関復帰の場所だったが6勝9敗という成績に終わった。5連敗スタートとなり、大関復帰の可能性が早々と消滅した。その後は9日目から4連勝するなど巻き返し、6勝6敗の五分の星に持ち込んだ。しかし終盤は連敗し、14日目に負け越しが決まると千秋楽は大の里に敗れて9敗目となり、三役確保が厳しい状況となった。

     内容以前に私は初日の若隆景戦が全てだったと思っている。押し合いから霧島が右を差そうとしたところで左からおっつけられると右も差された。そして一気に寄られ、必死に粘ったものの最後は寄り切られた。

     負けたことは仕方がない。問題は体勢である。左からおっつけられた後、右を無理やりこじ入れようとしたものの、若隆景に体を寄せられたこともあり、右ヒジが不自然な形で曲がったように見えた。そして霧島が左から抱えて粘ったことでその時間が長くなった。おそらくその流れで右手首を痛めたものと思われる。

     結論から言えば結果論になってしまうが、右の差し手を抜き、潔く負けて欲しかった。終盤の土俵ならともかく、まだ初日である。怪我をして、後々に響くような相撲は取ってはいけない。確かに大関復帰が懸かった場所であり、気持ちは分かるが、それでも相撲は15日間あるので序盤で無理するのは得策ではない。勿論これは霧島に限ったことではない。全ての力士に言えることである。序盤で怪我をして休場すれば、次の場所の番付の大幅な降下は避けられなくなる。ということで序盤の怪我だけには注意して欲しいと思った次第である。場所前は順調に稽古ができており、このような結果になってしまったのが残念でならない。

     来場所は2年半ぶりとなる平幕での土俵となる。勿論1場所での三役復帰が望まれるが、三役復帰は当然として、問題は大関に戻れるかどうかである。年齢は28歳であり、三大関より年上である。そして三大関はいずれも横綱候補でもあり、大関に戻るためには大関を倒すことが求められる。また1場所ではなく、星を揃える必要があるので安定感も必要である。よって大関復帰に向けては来年1年が勝負だと思っている。

     そして相撲内容である。師匠からは「廻しを取れないと勝てないよ」と口を酸っぱくして言われているみたいだが、霧島にとっては極めて重い課題である。また9月場所は12勝を挙げたが、横への動きで勝った相撲が多く、やはり前に出る相撲を取ることが大関復帰に向けては不可欠となる。私としては廻しを取るにはどうするかを徹底して考えて欲しいと思っている。横への動きに頼っていては同じことの繰り返しだと思うので、平幕陥落を機に自分の相撲を見つめ直して欲しいというのが私の考えである。