2024年9月場所個別評価 玉鷲

 今場所は東前頭10枚目だったが7勝8敗で負け越した。前半戦は3勝5敗と黒星先行で折り返した。そして後半戦は巻き返し、14日目は宝富士に勝ち、7勝7敗の五分に持ち込んだ。しかし千秋楽は竜電に敗れ、惜しくも負け越した。また4場所連続負け越しとなったが、そのいずれもが7勝8敗である。

 一番のニュースは通算連続出場記録で1位だった青葉城の1630回に2日目で並び、3日目で1631回連続出場の歴代単独1位に躍り出たことである。そしてその3日目は、かつて付け人を務めていた輝との一番だったが押し出しで破り、まるで優勝したかのような大きな拍手を浴びていた。なお2022年7月場所の途中休場はコロナ禍での不可抗力のため、記録は継続扱いとなる。また幕内連続出場記録も継続中であり、3日目には史上6位の宝富士の990回に追いつき、13日目には史上6人目となる1000回連続出場を達成した。

 私的に驚いたのは幕下時代に首を痛めたが、首を鍛えるため、1年間地方場所で不在の間以外は同じ場所に頭をグリグリと押しつけて寝ていたエピソードである。びん付け油が付着し、壁は変色したようである。痛む首に負荷をかけるため、当然激痛が走る。それでも当時知り合ったトレーナーから「荒療治だが将来を考えれば、首の筋力強化が力士生命を延ばす」と言われ、痛みに耐える生活を1年間続けた。本人も「あの時に首を治せたから今がある」と語っており、やはり人並外れた努力をしてきた結果である。

 あとは師匠の存在が大きい。師匠の片男波親方は元関脇・玉春日である。現役時代は同学年の土佐ノ海とともに上位キラーとして活躍した。また玉鷲に関しては背が高く、手足が長いので四つ相撲でも取れる体型である。よって時に四つに組むなど、20代の頃は中途半端な相撲を取っていた印象がある。しかし師匠が突き押し一本で臨むように指導し、玉鷲が素直に受け入れた。その結果30代に入ってから素質が開花し、幕内優勝を2度果たしている。また話題となったが、片男波部屋は力士数が少なく、若い衆2人対玉鷲1人でやらせる稽古のアイデアは師匠が発案したものである。そして片男波部屋は伝統のある部屋であり、脈々と受け継がれている厳しい指導方針が玉鷲にも伝わっているようである。

 場所後は太ももの裏側にこぶし大ほどの隆起物が見つかったということで切開し、秋巡業を休場した。大事には至っておらず、来場所の出場は問題なさそうである。

 11月場所は7日目の11月16日には40歳の誕生日を迎えることになる。それでも突き押し相撲は健在であり、今場所12日目は同じくモンゴル出身の若手の阿武剋を押し出しで破っている。目先でいえば5場所ぶりに勝ち越したいところだ。そして体に張りがあり、連続出場記録もまだまだ伸ばせそうである。三役復帰を目標としており、まずは平幕上位に番付を戻したい。