2024年9月場所個別評価 若隆景

 今場所は東前頭7枚目だったが12勝3敗の好成績で初の殊勲賞を受賞した。黒星スタートも2日目からは4連勝するなど白星を伸ばし、前半戦は6勝2敗で折り返した。そして後半戦は11日目は錦木との2敗対決に敗れ、3敗となった。しかし翌12日目は粘りの相撲の末大の里を寄り切りで破り、大の里の初日からの連勝を止める殊勲の星を挙げた。その後終盤も白星を伸ばし、12勝で場所を終えた。

 内容に関しては鋭い踏み込みからの前に出る相撲とタイミングの良い引き技で白星を挙げていた。また今場所は先場所とは違って取組後右膝を気にする素振りは見せておらず、大勝ちをしたということで復活したと見て良さそうだ。

 やはり最大のハイライトは大の里戦である。立ち合いからもろ手突きで一気に前に出る大の里に対して土俵際で二本差して残した。その後寄り返したが今度は大の里が強引に左から突き落としを見せたが左足一本で何とか残した。最後は大の里が馬力任せに寄るところを両下手を取り、右下手から振って体を入れ替えて寄り切った。差しただけでなく、両下手を取ったことが粘れた要因である。しかも瞬時の早業であり、おそらく若隆景にしかできない芸当である。またその前の突き落としは俵を伝って残しており、優勝を決めた2022年3月場所の高安戦の最後の場面を彷彿とさせた。しかし182キロの大の里の圧力に耐えた代償は大きく、左足の親指の爪は割れ、出血していたようである。まさに執念の相撲であり、起死回生の逆転劇だった。大の里に角界の厳しさを教えるという部分でもこの白星は意義があったと私は思っている。

 さて気になるのが場所後の秋巡業を10月2日から休場したことである。右膝の炎症で全治4週間であり、巡業に戻るかどうかは未定のようだ。先述の大の里戦だけでなく、14日目の大栄翔戦も激しい攻防のある相撲を取っており、右膝が悲鳴を上げたのかもしれない。去年3月場所後に右膝を手術しており、回復途上ということで部屋で調整して次の場所に備えた方が良さそうに見える。

 11月場所は番付に関しては両大関との対戦がなかったので筆頭止まりと見ている。よって三役復帰を懸けた場所となりそうだ。実績も地力もあるが、体重135キロの軽量力士であり、気になるのがやはり相撲内容である。ここまで番付が上がってくると厳しいとは思うが、できれば攻防のある激しい相撲は避けたいし、または極力減らしたいところだ。自らは動かず、相手の動きを見ながら反応するような相撲を取って欲しいと思っている。理想は元大関・栃東のような相撲である。また師匠の荒汐親方の元幕内蒼国来も37歳まで現役を勤めており、参考になるはずである。そして師匠は経験が豊富な上に人格者であり、師匠のアドバイスに耳を傾けながら長く現役生活を続けて欲しい。