2024年9月場所個別評価 王鵬

 今場所は西前頭2枚目であり、自己最高位となったが9勝6敗で勝ち越した。平幕上位の番付ということで初日から役力士との対戦が続き、4日目までは1勝3敗だった。しかし5日目は琴櫻戦だったが5度目の対戦でようやく白星を挙げた。翌日も豊昇龍を倒し、いずれも結びでの白星となった。なお結びに関しては3月場所では照ノ富士に勝っており、通算6戦5勝と驚異の勝率である。しかし好事魔多しとはよく言ったものである。翌7日目の阿炎戦は突き落としで勝ったものの、阿炎の頭が右目付近にぶつかったことが原因で取組後は土俵上でふらついていた。その後勝ち残りの土俵下では右目がみるみる腫れ上がっていた。次の日からは右目が腫れたままの土俵となり、精神力が問われたが8日目は翔猿に勝ち、前半戦は5勝3敗で折り返した。役力士との対戦は終えているものの、問題はここからである。そして後半戦はほとんどの相撲がどちらが勝ってもおかしくない熱戦となった。よって勝ったり負けたりとなったが12日目に熱海富士を土俵際の肩透かしで破り、勝ち越しを決めた。その後は連敗したが千秋楽は勝った方が三役と思われる一番で正代を寄り倒しで破り、9勝目を挙げると同時に来場所の新三役が有力となった。

 内容に関しては全体として見れば押した後に四つに組む相撲が多かった感じがする。また結果は別にして、現在の実力を出し切ったと言っていいと思う。特に良かったのが5日目の琴櫻戦である。押し合いとなったが琴櫻が左上手を取ると右を差し、右から掬って残すと攻め返し、下手を取った。そして動きが止まり、琴櫻の右と王鵬の左の攻防となった。その後王鵬が前に出ながら琴櫻の左上手を切ると左も差してもろ差しとなり、寄り切った。ポイントは琴櫻の突き押しを王鵬が凌いだことである。そして琴櫻が左上手を取ると、待ってましたと言わんばかりに右を差した。その後琴櫻に攻められながらも右下手を取った。あとは右を差されないようにすれば良いだけであり、動きはあったものの、非常によく考えた相撲を取ったと言える。結果だけでなく、内容も素晴らしかった。

 一方負けた相撲に関しては大の里戦、平戸海戦、そして錦木戦はいずれも差された後一気に寄られており、脇の甘さを見せてしまった。脇を固めるだけでなく、突き放して応戦するなど、対策はあると思うので対応力を上げていきたい。

 それにしても今場所の頑張りは見事だった。幕内で一番頑張った力士と言ってもいいかもしれない。関係者は勿論、ファンの人も手に汗握ったのではないだろうか。私的には敢闘賞をあげたいくらいである。いや、右目を痛めた中で頑張ったので「奮闘賞」でもいいかもしれない。

 場所後はやはりというか右目付近を骨折しており、手術を受けたそうだ。秋巡業は休場し、次の場所に向けて調整するようである。

 11月場所は新三役が有力視されるが、上がれなかったとしても再度勝ち越したい。また今後1年は伸びるかどうかが注目である。現状は三役と平幕上位の力量はほぼ横一線であり、その中から抜け出すことを期待したい。