2025年11月場所個別評価 錦富士
今場所は東前頭15枚目であり、4場所ぶりの幕内の土俵となったが9勝6敗という成績だった。そして142年続く青森県出身の幕内力士の伝統をつなぐ唯一の存在として土俵に上がった。よって幕内の地位を守るか注目された。
黒星スタートとなったが2日目からは4連勝するなど好調であり、前半戦は6勝2敗で折り返した。また8日目は幕内残留が決まる6勝目を挙げた。そして後半戦は10日目から連勝し、11日目に勝ち越しを決めた。その後は役力士と対戦が組まれるなどして3連敗したが千秋楽は翔猿を押し出し、9勝で場所を終えた。
内容に関してはいつものように突き押しと左四つに組む相撲で白星を挙げていた。2日目の竜電戦はぶちかました後突き起こして押し込み、左へ回り込もうとする竜電を逃さず突き出した。廻しは絶対に与えないという強い意志が見えた。4日目の千代翔馬戦は千代翔馬に左から張られた後右上手を許した。下手は取ったものの千代翔馬得意の右上手を取られ、苦しい体勢に見えた。しかし右上手投げをこらえると左外掛けからの右小股すくいで倒した。持ち味である器用さと相撲の上手さを発揮した。そして勝ち越しを決めた11日目の藤ノ川戦は当たってすぐにモロ差しを許して寄られたが左を巻き替えてこらえた。すると右から引っ張り込んで藤ノ川の上体を起こし、最後は押し出した。藤ノ川の攻めは速いのだが、瞬時に巻き替えたあたりは流石である。また速さと上手さでは藤ノ川に負けないことを証明した。
負けた相撲に関して印象に残ったのが13日目の高安戦である。当たってすぐに右上手を取ろうとしたものの取れず、逆に左を差されそうになったので右おっつけから突き立てた。その後は真っ向勝負の押し合いといなし合いとなったが最後は高安の左に回り込んでの叩きについて行けなかった。それでも取組後本人は「出し切りました」と語っており、観ている方もそれが分かる一番だった。負けたとはいえ簡単に左を差させなかったという意味では相撲巧者である。
そして首痛にもかかわらず連日頭からぶちかましていたことに加え、14日目の取組後は場所中に左足小指を骨折していたことを明かしていた。情報の限りでは体は既に限界を超えており、それでも懸命に土俵を務める姿は胸を打つものがある。誰にでもできることではない。
来場所は西前頭11枚目となった。下に6枚あるので大負けをしない限り幕内に残留できる。ということで自分の相撲を取ることに徹したい。そして青森県出身の幕内力士に関しては尊富士の幕内復帰や若手力士の台頭が望まれる。現状では1人に責任を負わせるのは酷である。また先に向けて安泰という状況ではないのでこの話題がしばらく続くことになりそうだ。
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