目指せ三役! 佐田の海 境川親方の男気エピソード 場所前の師匠の一言

 2025年5月場所での敢闘賞受賞は、場所前、師匠から掛けられたある一言が大きな要因だった。いつものように稽古場に下り、日課である200回の四股を踏み、ストレッチで体をほぐしてスリ足と稽古前の一連の準備運動を終えてテーピングを巻いていると師匠から「四股が少ないんじゃないか」と檄が飛んだ。

 自分では思ってもみなかったことを指摘されたが、言われるがままに、更に150回の四股を踏み、スリ足をやってみると、これまでとは違う感覚が足の裏から伝わってきた。「めちゃくちゃいい感じがした。足が浮かないでしっかりスリ足ができている感覚があった。またひとつ発見しました」

 そして5月場所の後半は9日目から2日連続で物言いが付く微妙な相撲になった。しかし「二番とも攻めている内容だったのでプラスに捉えています」と積極的な攻めで白星を重ねた。これも四股を増やしたことで下半身にしっかり力が入り、相手の引きにも足がついていったからと思われる。

 「師匠が見ているところは凄いなと思いました。この年になったら普通は言われないと思うけど、自分が気づかないことを言ってくれる。感謝しかない」と佐田の海は語る。そして佐田の海が言うように、ベテランともなれば、師匠であっても調整は本人に任せて口を挟まないケースがほとんどだと思う。しかし師匠の境川親方だけは違う。常に気に掛けているからこそ、その一言が言える。私的には一言で結果が出たからではなく、一言が言えるだけで凄いことだと思っている。これは指導者としてはなかなかできることではない。またこの部分だけでも境川親方を尊敬できる。勿論信頼関係で強く結ばれた師弟だからこそではあるが、師匠の人間性の一端が分かる出来事である。

続く